低用量ピルと性交痛は関係する?症例から考えるホルモン性の腟前庭部痛
更新日:2026.07.29
低用量ピルを服用中に、腟の入口の痛みや性交痛を感じる方がいらっしゃいます。
すべての方に起こるわけではありませんが、ピルの服用開始後に性交痛や乾燥感が現れた場合は、ホルモン環境との関連も含めて原因を確認することが大切です。
25歳の患者さんが、性交痛を主訴に来院されました。
実は、当院で約2年間にわたり低用量ピルを処方していた患者さんでした。
患者さんご自身も、
とお話しされました。
そこで、服用の目的や避妊の必要性を確認したうえで、一度ピルを中止して経過を見ることをご提案しました。
ピルの服用中止後にモナリザタッチを1回施術したところ、性交痛はほぼ消失し、「痛みなく性交ができるようになりました」とのご報告がありました。
この症例を経験し、改めて「ホルモン環境が性交痛に与える影響」について強く考えさせられました。
症例の掲載について
個人が特定されないよう、一部の情報を調整しています。また、今回の症例ではピルの服用中止後にモナリザタッチも行っているため、どちらがどの程度症状の変化に影響したのかを厳密に分けることはできません。治療経過や結果には個人差があります。
同様の患者さんは初めてではありません
これまでにも、
という患者さんを診療したことが何度もあります。
そのような患者さんの中には、モナリザタッチを3回施術したことで、性交痛の改善がみられた方もいらっしゃいました。
実際の診療では、次の両方のケースがあります。
- ピルの服用を中止した後に症状が改善する方
- 中止後も症状が続き、ほかの治療が必要になる方
そのため、ピルを中止すれば、すべての性交痛が改善するわけではありません。痛みの場所や原因を確認し、患者さんごとに治療方法を検討する必要があります。
低用量ピル服用中の症状を詳しく知りたい方へ 低用量ピル内服中の腟・外陰部の不快感と性交痛について 低用量ピル服用中に起こることがある乾燥、腟の違和感、性交痛と治療の選択肢を解説しています。ピルと性交痛の関係
最近では、「ホルモン性前庭痛(Hormonally Mediated Vestibulodynia)」という考え方が注目されています。
特に、エストロゲン量が少ないタイプや、抗アンドロゲン作用を持つ配合ピルについては、次のような変化と性交痛との関連を検討した報告があります。
- 腟前庭部の粘膜が薄くなる
- 腟や外陰部の潤いが低下する
- 腟前庭部の神経が刺激を受けやすくなる
最近では、特に抗アンドロゲン作用のある低用量ピル(ドロスピレノンを含む製剤など)と性交痛の関連を検討した研究も報告されています。
ただし、すべてのピルで性交痛が起こるわけではありません。同じピルを服用していても、症状が出る方と出ない方がいます。
現在のところ、「どのような方に性交痛が起こりやすいのか」「ピルがどの程度影響しているのか」については、十分に分かっていない部分もあります。
低用量ピルは、避妊や月経痛などの治療に役立つ薬です。性交痛との関連が報告されているからといって、服用中の方全員に問題が起こるわけではありません。
ただし、ピルの服用開始後に性交痛、腟の入口のヒリヒリ感、乾燥などが現れた場合は、関連を検討する価値があります。
私の現在の考え
性交痛があり、低用量ピルを服用している患者さんでは、痛みが始まった時期や服用している製剤、ピルを服用している目的を確認します。
そのうえで、現在の私の考えは次のとおりです。
ピルを避妊目的で服用している場合は、中止後の妊娠を防ぐために、別の避妊方法についても事前に検討する必要があります。月経痛や子宮内膜症などの治療目的で服用している場合も、症状が再び現れる可能性を考慮します。
自己判断で服用を中止せず、処方を受けている医師にご相談ください。
ピルを見直しても性交痛が改善しない場合には、痛みの原因や組織の状態を診察したうえで、モナリザタッチが治療の選択肢になることがあります。
モナリザタッチは、炭酸ガスレーザーによる微細な熱刺激を利用し、腟や外陰部の組織の修復反応を促す治療です。乾燥や粘膜の薄さなどが性交痛に関係している場合に、症状の軽減を目指して行います。
私自身、4,200件以上のモナリザタッチ施術を経験する中で、ホルモンの影響が疑われる性交痛についても、症状の改善がみられた例を経験しています。
治療方法を詳しく知りたい方へ モナリザタッチ(腟レーザー治療)について 治療の仕組み、照射部位、費用、治療後の注意点、考えられるリスクについてご案内しています。しかし、別の問題もありました
今回の患者さんは、性交痛については改善がみられました。
ところが、ピルを中止して約1か月後から、ニキビが急激に悪化したのです。
低用量ピルには避妊以外にも、服用する方によって次のような変化がみられることがあります。
- ニキビの改善
- 皮脂分泌の抑制
- 月経痛の改善
つまり、
という、新たな悩みが生じました。
一つの症状だけを見るのではなく、避妊、月経痛、肌の状態、性生活の質などを含め、患者さんにとって何を優先するのかを一緒に考える必要があります。
次に考えたいこと
私が今、とても興味を持っているのは、
ということです。
例えば、次のような選択肢では、腟前庭部への影響がどのように異なるのでしょうか。
- プロゲスチン単剤による避妊法
- ホルモンを使用しない避妊法
- そのほかの避妊方法
一方で、プロゲスチン単剤についても性交痛との関連を検討した報告がありますが、研究はまだ限られており、十分に解明されていません。
患者さん一人ひとりに適した避妊方法と、性生活の質(QOL)をどのように両立させるか。今後も診療の中で丁寧に考えていきたいテーマです。
最後に
性交痛は、「我慢するもの」ではありません。
次のような症状がある場合は、一度婦人科で相談してください。
- ピルを飲み始めてから性交痛が出てきた
- 腟や外陰部の潤いが少なくなった
- 性交時に腟の入口だけが痛む
- 挿入時にヒリヒリする、しみる、裂けるように痛む
性交痛の原因には、ホルモン環境だけでなく、腟前庭部の粘膜や神経の変化、炎症、感染症、骨盤底筋の緊張など、さまざまな要因があります。
「ピルが原因だ」と自己判断するのではなく、痛みの場所や始まった時期、粘膜の状態などを確認することが大切です。原因によって、治療方法は大きく変わります。
今回の患者さんの経験から、私は改めて「性交痛では原因を見極めることが大切」であると実感しました。
服用している薬の見直し、保湿や潤滑、生活習慣の見直し、骨盤底筋へのアプローチ、適応がある場合のレーザー治療などを組み合わせることで、症状の軽減を目指せる場合があります。
早めの対面受診をご検討いただきたい症状
性交痛に加えて、強い下腹部痛、出血、発熱、悪臭のあるおりもの、急な症状の悪化などがある場合は、感染症や婦人科疾患が隠れていることもあります。早めに婦人科を受診してください。
性交痛でお悩みの方へ
当院の性交痛外来では、痛みの場所、ホルモン環境、腟や外陰部の状態、骨盤底筋の緊張などを確認し、患者さんごとに治療方法をご提案しています。
ピルを続けるべきか迷っている方も、自己判断で中止せず、まずは婦人科でご相談ください。
参考文献
- Greenstein A, et al. Vulvar vestibulitis syndrome and estrogen dose of oral contraceptive pills. J Sex Med. 2007.
- Burrows LJ, Goldstein AT. The treatment of vestibulodynia with topical estradiol and testosterone. Sex Med. 2013.
- Goldstein AT, et al. Polymorphisms of the androgen receptor gene and hormonal contraceptive induced provoked vestibulodynia. J Sex Med. 2014.
- Reed BD, et al. Oral contraceptive use and risk of vulvodynia: a population-based longitudinal study. BJOG. 2013.
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
産前産後から更年期まで、女性のライフステージに寄り添う診療と情報発信に取り組んでいます。性交痛、外陰部・腟まわりの痛み、デリケートゾーンの違和感など、相談しづらいお悩みにも丁寧に対応しています。



