腟には分泌腺がない?バルトリン腺・スキーン腺と女性の潤い
更新日:2026.09.17
「腟はいつもある程度潤っているのだから、腟の中にはたくさんの分泌腺がある」
そう思っている方は多いのではないでしょうか。
実は、組織学的には、腟壁そのものには分泌腺がありません。
腟の潤いには、腟壁を通してしみ出す水分や、子宮頸部からの粘液などが関わっています。一方、腟の入口や尿道の周囲には、粘液などを分泌する腺があります。
私も女性の「潤い」について考えるなかで、改めてこの解剖学的な違いをとても興味深く感じました。
今回は、女性の外陰部や腟の入口にある分泌腺について、その位置と特徴をお話しします。
目次
腟の中には「腺」がありません
腟の壁は、主に次の組織からできています。
- 非角化重層扁平上皮:腟の内側を覆う上皮
- 粘膜固有層:上皮の下にあり、血管などを含む組織
- 筋層:腟の壁を構成する筋肉の層
- 外膜:周囲の組織とつながる外側の層
唾液腺のように「液体をつくって分泌する腺」が、腟壁の中に並んでいるわけではありません。
つまり、「腟から液体が出てくる=腟の中の分泌腺から出ている」というわけではないのです。
分泌腺があるのは「腟の入口から尿道の周囲」
腟の奥ではなく、腟の入口を含む腟前庭から尿道周囲に目を向けると、いくつもの分泌腺が存在します。
腟前庭とは、小陰唇の内側にある、尿道口や腟の入口が開く部分です。
代表的なのが、バルトリン腺(Bartholin腺・大前庭腺)です。
腟の入口の後方の左右に1個ずつ、合計2個あります。それぞれに導管という分泌物の通り道があり、粘液が腟前庭に出てきます。性的興奮時の外陰部・腟入口部の潤滑にも関係しています。
このバルトリン腺に関連して、腟の入口付近の腫れやしこりが気になる方は、次の記事も参考にしてください。
実はバルトリン腺だけではありません
あまり知られていないのが、小前庭腺(minor/lesser vestibular glands)です。
その名前のとおり小さな粘液腺で、腟前庭にはこのような腺が多数存在します。
ただし、バルトリン腺のように「左右1個ずつ」と数えられるものではありません。
大きさや数、分布には個人差があり、「女性には小前庭腺が○個あります」と、一律には言えないのです。
さらに複雑なのが「スキーン腺」
もう一つ興味深いのが、スキーン腺(Skene腺・尿道傍腺)です。
一般向けには「尿道の左右にある2つの腺」のように説明されることがありますが、実際の組織学的構造はもっと複雑です。
1948年、Huffmanは成人女性の尿道を連続切片で詳細に調べ、尿道周囲の腺や導管を立体的に再構築しました。連続切片とは、組織を続けて薄く切り、その断面を順番に観察する方法です。
その結果、尿道の周囲には単純な2つの腺があるというより、多数の尿道傍導管が分岐し、そこに管状の腺組織がつながる複雑な構造が存在することが示されました。
つまり、女性の尿道周囲には、私たちが想像する以上に細かな腺や導管が入り組んで存在しているのです。
「女性前立腺」という考え方もあります
さらに、スキーン腺を含む尿道周囲の腺組織からは、男性の前立腺でも作られるPSA(前立腺特異抗原)やPSAP(前立腺特異酸性ホスファターゼ)が検出されます。
そのため、この尿道周囲の腺組織をfemale prostate(女性前立腺)という視点から研究することもあります。
もちろん、男性の前立腺と全く同じ形や大きさの臓器という意味ではありません。
女性の尿道周囲にも、こうした共通の特徴を持つ腺組織があることは、とても興味深い事実です。
腟とその周囲の分泌腺を分けて考えることが大切です
ここまでを整理すると、腟壁そのものには分泌腺がなく、腟の入口から尿道周囲には、さまざまな分泌腺があるということです。
バルトリン腺(大前庭腺)
腟の入口の後方の左右に1個ずつある腺です。
小前庭腺
腟前庭に分布する小さな粘液腺です。
スキーン腺(尿道傍腺)とその導管系
尿道周囲にある腺や分泌物の通り道です。
バルトリン腺は左右1個ずつですが、小前庭腺や尿道周囲の腺・導管系は個人差が大きく、「全部で何個、何本」と単純に数えることはできません。
ひとくちに女性の「潤い」といっても、腟の中と、腟の入口・尿道周囲とでは、関わる組織や仕組みが異なります。ここを分けて考えると、身体の仕組みが理解しやすくなります。
分泌腺がないのに、どうして腟の中は潤うのでしょうか
腟の潤いには、腟壁の血管からしみ出し、腟壁を通って表面に届く水分や、子宮頸部からの粘液などが関わっています。
また、女性ホルモンや腟上皮の状態も重要です。腟内細菌叢も、こうした腟内の環境と深く関係しています。
これらの仕組みは、更年期・閉経後に起こる腟の乾燥や、GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)を考えるうえでも大切です。
今回は、腟壁と、その周囲にある分泌腺の違いを中心にお話ししました。腟が潤う仕組みや、乳酸菌・腟内細菌叢と乾燥感の関係については、連載の2本目で詳しく解説しています。
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
産前産後から更年期まで、女性のライフステージに寄り添う診療と情報発信に取り組んでいます。性交痛、外陰部・腟まわりの痛み、デリケートゾーンの違和感など、相談しづらいお悩みにも丁寧に対応しています。



