乳酸菌で腟は潤う?腟内細菌叢と乾燥感の関係を婦人科医が解説
更新日:2026.09.17
乳酸菌を補うと、腟は潤うのでしょうか。
先に結論をお伝えすると、乳酸菌が水分を大量に出して腟を潤しているわけではありません。また、乳酸菌を補えば乾燥が改善する、と一律に言える段階でもありません。
一方で、腟内細菌叢と腟粘膜の状態、そして乾燥との関係は、研究が進められているテーマです。
日々の診療で腟の乾燥についてお話を伺うなかで、私は「潤う」という感覚には、水分量だけでは説明できない面があるのではないかと考えるようになりました。
今回は、腟が潤う基本的な仕組みを整理したうえで、「腟内細菌叢と乾燥感の関係」について、研究でわかっていることと、私が診療で着目している点をお話しします。
目次
腟に分泌腺がないのに、なぜ潤うのでしょうか
腟壁そのものには分泌腺がありません。腟の潤いを支える仕組みの一つが、腟壁の血管から組織を通って移動してくる水分です。
腟の壁には豊富な血管があり、血液中の水分などが腟壁を通って表面にしみ出します。性的興奮時には血流が増え、この仕組みによる潤滑が起こります。
子宮頸管からの粘液も腟内の分泌物に含まれます。また、腟入口部ではバルトリン腺などの分泌液が潤滑に関わります。
つまり、「腟壁に分泌腺がない」ことと、「腟の中に潤いがない」ことは別なのです。
腟壁と、その周囲にある分泌腺の違いは、「腟には分泌腺がない?バルトリン腺・スキーン腺と女性の潤い」で詳しく解説しています。
こうした潤いを考えるうえでは、水分の供給だけでなく、女性ホルモンや腟上皮の状態にも目を向ける必要があります。
乳酸菌そのものが「水」を出しているわけではありません
Lactobacillus(ラクトバチルス)は、乳酸菌の仲間です。
ラクトバチルスが、水や粘液を大量に分泌して腟を直接潤しているわけではありません。
では、なぜ乳酸菌と「潤い」が関係するのでしょうか。
私はこれを、乳酸菌がつくる乳酸、腟内のpH、他の細菌との関係、炎症、腟上皮の状態など、腟内環境全体の問題として考える必要があると思っています。
「水分を補うこと」と「腟内環境に関わること」は別です
乳酸菌は、保湿剤のように直接水分を補うものではありません。乳酸の産生やpHとの関係など、腟内環境における働きに着目して考えることが大切です。
健康な腟にはラクトバチルスが多くみられます
性成熟期の健康な女性では、腟内細菌叢がラクトバチルス優位になっていることが多くあります。
代表的には、次のような菌種がみられます。
- Lactobacillus crispatus(ラクトバチルス・クリスパタス)
- Lactobacillus gasseri(ラクトバチルス・ガセリ)
- Lactobacillus jensenii(ラクトバチルス・ジェンセニー)
- Lactobacillus iners(ラクトバチルス・イナース)
ただし、これらはすべて同じ性質ではありません。例えば、Lactobacillus inersは、腟内細菌叢が変化する過程でもみられるため、菌の名前だけで腟内環境の良し悪しを判断することはできません。
ラクトバチルスの重要な働きの一つが、乳酸を産生することです。
乳酸によって腟内は酸性に保たれます。この酸性環境は、一部の病原性微生物が増殖しにくい環境をつくることに関係しています。
つまり、ラクトバチルスは、単に腟の中に「住んでいる菌」ではありません。
腟内環境を支える重要なメンバーなのです。
エストロゲンと乳酸菌はつながっています
そして、ここで女性ホルモンが登場します。
エストロゲンが十分にあると、腟上皮は成熟して厚みを保ち、上皮細胞にはグリコーゲンが蓄積します。
グリコーゲンが分解されてできる糖などは、乳酸菌の活動を支える栄養源になります。この腟上皮とグリコーゲンの豊富な環境は、ラクトバチルスが優位になりやすい腟内環境と密接に関係しています。
そして、ラクトバチルスが産生する乳酸などによって、腟内は酸性に保たれます。
この関係を整理すると、次のようになります。
- エストロゲンが腟上皮の成熟を支える
- 上皮細胞にグリコーゲンが蓄積する
- その分解で生じる糖などが乳酸菌の活動を支える
- ラクトバチルスが乳酸を産生する
- 腟内が酸性に保たれる
私はこれを、腟の中の一つの「生態系」として考えると、とても理解しやすいと思っています。
閉経すると、この生態系全体が変わります
閉経によってエストロゲンが低下すると、単に腟が薄くなるだけではありません。
腟上皮の成熟やグリコーゲンの状態が変化し、ラクトバチルスが減少する女性が増えます。腟内pHが上昇し、細菌叢の構成も変わります。
こうした変化とともに、次のような症状が現れることがあります。
- 腟の乾燥
- ヒリヒリ感
- 灼熱感(焼けるような感覚)
- 性交痛
- かゆみ
また、尿路の変化も関わり、尿路感染症を繰り返す方もいます。
これらは、GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)でみられる症状の一部です。
ただし、閉経後もラクトバチルスが多くみられる方はいますし、同じような腟内環境でも症状の感じ方は異なります。
エストロゲン、腟上皮、細菌叢、pHは、それぞれ別々に存在しているのではなく、互いに関わりながら腟内環境をつくっています。
実際、「乾燥」とラクトバチルスには関連があるのでしょうか
ここが、とても興味深いところです。
2011年に報告された、閉経後女性32人を対象とした研究では、ラクトバチルスの割合が低いほど、診察時に評価された腟の乾燥が強いという関連が認められました。
また、中等度から高度の乾燥がある女性では、腟内細菌の多様性が高い傾向もみられました。
つまり、この研究では、ラクトバチルスの少ない腟内環境と乾燥が関連していたのです。
ただし、これは「乳酸菌が少ないことが乾燥の原因である」「乳酸菌を増やせば乾燥が改善する」ことまで証明した研究ではありません。
研究によっては、エストロゲン、腟上皮の成熟度、pH、細菌叢には関係があっても、患者さんが感じる乾燥などの症状との関係は単純ではないことが示されています。
腟内の菌の割合だけで、乾燥感の有無や強さを説明することはできないのです。
「潤う」は、水分量だけの問題ではないのかもしれません
私は、ここがとても重要だと思っています。
患者さんが「潤うようになった」と感じることと、「腟内の水分量が何mL増えた」ということは、必ずしも同じではありません。
乾燥のご相談では、「ヒリヒリする」「擦れる」「性交渉のときに痛い」といった感覚を一緒に訴えられることがあります。
こうした不快感には、水分だけでなく、粘膜の状態や炎症、摩擦なども関わります。
そのため私は、腟内環境や粘膜表面の状態が変化することで、水分量そのものが大きく増えていなくても、「しっとりした」「乾燥感が減った」と感じる場合があるのではないかと考えています。
これは、乳酸菌によってその変化が起こると断定するものではなく、診療のなかで私が着目している視点です。
女性が感じる「潤い」を、水分量だけでなく、腟粘膜全体のコンディションから考えることが大切なのではないでしょうか。
では、乳酸菌を補えば腟は潤うのでしょうか
ここは、まだ一律の答えが出ていません。
2026年には、閉経後女性のGSMに対するラクトバチルスを用いた介入について、これまでの研究をまとめたシステマティックレビューが発表されています。
対象となったのは、9研究、合計751人です。
乳酸菌を用いた介入は研究されていますが、製剤や菌株、使用方法、併用する治療、評価項目などは研究ごとに異なります。腟内細菌叢やpHの変化と、患者さんが感じる症状の改善も、分けて評価する必要があります。
したがって、現時点では「乳酸菌を補えば、腟の水分が増えて潤う」と医学的に断定することはできません。
また、ある菌株や製剤についての研究結果を、そのまますべての乳酸菌製品に当てはめることもできません。
それでも、乳酸菌が産生する乳酸やpHの変化、他の細菌との関係、炎症や腟粘膜の状態を通じて、乾燥感にどのような影響があるのかは、研究する価値のあるテーマだと思います。
EBINEフローラと「潤い」について、当院が考えていること
当院では、EBINEフローラなどの乳酸菌ケアについてお話しする際にも、腟内環境と、患者さんが感じる乾燥や不快感との関係に関心を持っています。
ただし、一般的なラクトバチルスの研究結果と、EBINEフローラという製品自体の効果は、分けて考える必要があります。
今回ご紹介した研究から、EBINEフローラが腟の水分量を増やす、あるいはGSMの症状を改善すると結論づけることはできません。
私が今後、丁寧に調べてみたいのは、次のような要素と「潤い感」の関係です。
- 腟内細菌叢の構成
- 腟内のpH
- 腟上皮の状態
- 炎症や刺激の程度
- 粘膜バリアの状態
これらと自覚症状を合わせてみることで、「潤う」という感覚を、より深く理解できるのではないかと考えています。
腟は「一つの生態系」
腟の健康を考えるとき、保湿は大切なケアの一つです。しかし、「乾いているから保湿する」だけでは説明しきれないこともあります。
エストロゲン、血流、腟上皮、グリコーゲン、ラクトバチルス、乳酸、pH、その他の細菌、炎症、免疫。
これらが互いに影響し合いながら、腟内環境をつくっています。
だから私は、腟を単なる「筒状の臓器」としてではなく、ホルモン・粘膜・血流・細菌が共存する一つの生態系として考えることが大切なのではないかと思っています。
乳酸菌は、直接「水」を出して腟を潤しているわけではありません。
しかし、腟内細菌叢と粘膜の状態、そして私たちが感じる潤いや乾燥の関係には、まだ十分に解明されていないことがあります。
日々の診療で患者さんのお話を伺いながら、このテーマを丁寧に考えていきたいと思います。
腟の乾燥を考える際には、細菌叢だけでなく、腟壁そのものの状態も大切です。連載の3本目では、モナリザタッチと腟粘膜の組織変化について、研究と当院の考察を分けて解説しています。
腟の乾燥・ヒリヒリ感が続くときはご相談ください
腟の乾燥やヒリヒリ感が続く場合は、年齢のせいと決めつけず、婦人科でご相談ください。
ホルモンの変化だけでなく、感染や皮膚の炎症など、別の原因が関わることもあります。診察で状態を確認し、保湿や治療など、ご自身に合った対応を考えることが大切です。
出血、強い痛み、しこり、急な悪化がある場合は、対面での診察を受けてください。
参考文献
- Hummelen R, et al. Vaginal Microbiome and Epithelial Gene Array in Post-Menopausal Women with Moderate to Severe Dryness. PLoS One. 2011;6(11):e26602. 閉経後女性の腟内細菌叢と乾燥を調べた研究
- Waetjen LE, et al. Relationships between the vaginal microbiota and genitourinary syndrome of menopause symptoms in postmenopausal women: the Study of Women's Health Across the Nation. Menopause. 2023;30(11):1073–1084. 腟内細菌叢とGSM症状の関係を調べた研究
- Tsuboi I, et al. Effect of Lactobacillus-based probiotics on genitourinary syndrome of menopause in post-menopausal women: A systematic review. Maturitas. 2026;208:108921. GSMに対する乳酸菌介入の研究をまとめたレビュー
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
産前産後から更年期まで、女性のライフステージに寄り添う診療と情報発信に取り組んでいます。性交痛、外陰部・腟まわりの痛み、デリケートゾーンの違和感など、相談しづらいお悩みにも丁寧に対応しています。



