閉経後の頻尿・腟症状とラクトバチルス|「腟―膀胱―腸 軸」を婦人科医が解説
更新日:2026.08.27
― 私が臨床で感じてきたことと、新しい研究 ―
「トイレが近くなった」
「何度も膀胱炎を繰り返す」
「腟が乾燥する」
「ヒリヒリする」
「性交痛がある」
更年期以降の女性から、私たちはこうしたご相談を本当によく受けます。
これらの症状は、GSM(Genitourinary Syndrome of Menopause:閉経関連尿路性器症候群)と呼ばれる病態の一部です。
そして先日、この記事を目にして、私はとてもうれしくなりました。
岡山大学の研究グループが、世界12か国、23研究、合計5,027人を対象としたシステマティックレビューを行い、腟・尿路・腸の細菌叢(マイクロバイオーム)を統合的に検討したという報告です。
そこで提唱されたのが、
という新しい概念でした。
なぜ私がこの研究を読んで、こんなにうれしくなったのか。
それは、私が大学にいた頃から、そして現在の日々のGSM診療や性交痛診療の中で、患者さんを診ながら感じてきたことと、とてもよく重なっていたからです。
この記事のポイント
- 閉経後は、腟だけでなく尿道・膀胱にも変化が起こります。
- 腟と尿路では、Lactobacillusの減少という共通した変化が報告されています。
- 近年は、腟・膀胱だけでなく腸まで含めた「腟―膀胱―腸 軸」という視点が注目されています。
- ただし、3つの部位の因果関係や乳酸菌による治療効果は、今後さらに検証が必要な段階です。
目次
GSMは「腟が乾燥する病気」だけではありません
閉経に伴ってエストロゲンが低下すると、女性の身体にはさまざまな変化が起こります。
腟の乾燥、灼熱感、かゆみ、性交痛だけではありません。
婦人科的な症状とともに、頻尿、尿意切迫、尿漏れ、反復性膀胱炎など、尿路にも症状が現れます。
私は以前から、
と感じてきました。
泌尿器と生殖器は発生学的にも深いつながりがあります。
頻尿だから膀胱だけを診る。
膀胱炎だから抗菌薬だけを処方する。
性交痛だから腟だけを診る。
それだけではなかなか改善しない女性がいらっしゃるのは、むしろ当然のことなのではないかと思っていました。
今回の研究は、そこに「細菌叢」という新しい視点を加えてくれました。
閉経すると腟内のLactobacillusが減っていく
健康な腟内では、Lactobacillus(乳酸桿菌)が大切な役割を担っています。
乳酸桿菌によって腟内は酸性に保たれ、さまざまな細菌が過剰に増殖しにくい環境が維持されています。
ところが閉経によってエストロゲンが低下すると、腟上皮の状態が変化し、Lactobacillusが減少しやすくなります。
という変化が起こると考えられています。
今回の研究では、閉経後女性の腟と尿路の両方で、Lactobacillusの減少と細菌叢の多様性の増加という共通した変化が認められました。
私はこの内容に、とても共感を覚えました。
性交痛とStreptococcusという、私にとって新しい視点
さらに今回、私がとても興味を持ったのが、症状によって関連する細菌が異なる可能性が示されていたことです。
報告では、
が報告されていました。
当院では性交痛外来を行っています。
性交痛の患者さんでは、細菌性腟症などを合併している可能性も考え、必要に応じて腟分泌物の培養検査を行っています。
しかし正直に言うと、これまで私は、Streptococcusと性交痛との関連を特に意識して診療していませんでした。
今回の研究を読んで、
と思いました。
もちろん、Streptococcusが検出されたから性交痛の原因である、あるいは治療すれば性交痛が改善する、ということではありません。
性交痛には、GSM、腟前庭部痛、骨盤底筋の緊張、感染・炎症、皮膚疾患、心理的要因など、さまざまな原因があります。
しかし、性交痛と腟内細菌叢の関係をもう一度丁寧に見てみる。
私自身の診療に、新しい視点を与えてくれた研究でもありました。
モナリザタッチを行っていて感じてきたこと
当院では2019年から、GSMに対してCO₂フラクショナルレーザーであるモナリザタッチを行っています。
たくさんの患者さんを診療する中で、腟の乾燥や性交痛だけでなく、頻尿、尿漏れ、かゆみ、灼熱感など、さまざまな症状の変化を患者さんと一緒に見てきました。
モナリザタッチによるCO₂レーザー治療後には、腟内環境が変化し、Lactobacillus優位の方向へ変化することを示した研究も報告されています。
私はこの点を非常に重要だと考えています。
GSM治療では、
と同時に、
も大切なのではないか。
患者さんから治療後に症状が軽快したとお話しいただくたびに、その思いがだんだん強くなってきました。
EBINEフローラを併用して感じてきたこと
その中で当院では、腟内環境へのアプローチとしてEBINEフローラを開発し、使用しています。
EBINEフローラは、Lactobacillusの生菌をブレンドし、カプセルに閉じ込めたものです。
実際に使用している患者さんの中には、腟の不快感などのGSM症状が軽快していく方がいらっしゃいます。
もちろん、これは現時点では私自身の臨床経験から得ている印象です。
EBINEフローラによってGSMが改善することや、モナリザタッチとの併用によって治療効果が高まることが、大規模な臨床試験によって証明されているわけではありません。
それでも患者さんを長く診ていると、
この組み合わせが、良い方向に働いているのではないかと感じる場面があります。
今回の研究を読んで、私が臨床の中で感じていたことが、まったく違う方向を向いていたわけではなかったのかもしれないと思いました。
「腸内細菌とエストロゲン」がつながったことも、とても興味深い
さらに今回、私が「なるほど」と感じたのが、腸内細菌によるエストロゲン代謝という考え方です。
腸内細菌叢には、エストロゲンの代謝や体内循環に関与する細菌群が存在し、これをエストロボローム(estrobolome)と呼びます。
今回提唱された「腟―膀胱―腸 軸」では、
腸内細菌によるエストロゲン代謝の変化
そして、
腸・会陰・腟・尿路の間での細菌の移動
などを介して、3つの部位が影響し合っている可能性が考えられています。
これは臨床的にも、とても納得のいく考え方でした。
腟と膀胱がつながっているだけではない。
そこに腸内細菌とエストロゲン代謝まで関係しているかもしれない。
そう考えると、
という関係が見えてきます。
私がフローラを使用していて、内服によるアプローチと腟へのアプローチの両方に可能性を感じていたこととも重なります。
もちろん、その有効性や機序はこれから科学的に検証されなければなりません。
しかし、今回の「腟―膀胱―腸 軸」という考え方は、それまで別々に見えていたものを一つにつなげて考える、とても画期的な視点だと思います。
ホルモン治療だけでは十分でない女性に、新しい選択肢を
GSMの治療において、局所エストロゲン療法は重要な選択肢です。
しかし、すべての患者さんに同じように有効とは限りません。
十分な改善が得られない方もいますし、背景疾患などによってホルモン治療を選択しにくい患者さんもいらっしゃいます。
そうした女性に対して、
という治療が、将来もう一つの選択肢になってくれたらと期待しています。
ホルモンを補う。
組織を整える。
細菌叢を整える。
骨盤底筋を整える。
それぞれを患者さんの病態に合わせて組み合わせることができれば、GSM治療はもっと個別化できるかもしれません。
私は、乳酸菌がホルモン治療に代わるものというより、ホルモンだけでは解決できない部分を補ってくれる新しい治療の選択肢になってほしいと思っています。
ただし、「腟―膀胱―腸 軸」はまだ仮説です
とても期待の持てる研究ですが、ここは医師としてきちんとお伝えしておかなければなりません。
今回解析された23研究の内訳は、
です。
特に腸についての研究はまだ非常に少なく、同じ女性の腸・腟・膀胱の細菌叢を経時的に追跡して、3つの部位の因果関係を証明したわけではありません。
したがって、
- 「乳酸菌を摂ればGSMが治る」
- 「腸内環境を整えれば頻尿が治る」
- 「モナリザタッチとフローラを組み合わせれば必ず効果が高くなる」
と結論づけることは、まだできません。
また今回の研究でも、エストロゲン治療によってLactobacillus優位の状態が部分的に回復しても、細菌叢の改善と症状改善は必ずしも一致しないことが示されています。
GSMは単純な「乳酸菌不足」ではありません。
エストロゲン低下、腟上皮の菲薄化、血流低下、コラーゲンや弾性線維の変化、炎症、神経の感受性、尿道・膀胱、骨盤底筋、そして細菌叢。
さまざまな要素が複雑に関係する病態なのだと思います。
これからのGSM治療は「組織+細菌叢+骨盤全体」へ
私はこれからのGSM診療では、
という、より総合的な考え方が重要になってくるのではないかと思っています。
モナリザタッチも、フローラも、それぞれを単独で考えるのではなく、女性の骨盤内環境全体をどう整えていくかという視点の中で考えていきたいと思っています。
臨床で感じてきたことと研究がつながった喜び
医師として患者さんを長く診療していると、
「どうも、この治療を組み合わせた方が調子がいい」
「この症状とこの症状は、本当は別々ではないのではないか」
と感じることがあります。
もちろん、臨床的な実感だけで医学的な効果を断定することはできません。
だからこそ、研究による検証が必要です。
今回、
という新しい概念を目にしたとき、私は本当にうれしくなりました。
性交痛とStreptococcusの関連。
腟と尿路に共通するLactobacillusの減少。
腸内細菌によるエストロゲン代謝。
そして腸・腟・膀胱の間での細菌の移動。
今まで一つひとつ見ていたものが、一枚の絵としてつながり始めたように感じたからです。
GSMは、腟だけの問題ではありません。
頻尿も、膀胱炎も、性交痛も、乾燥も、それぞれを別々の症状として見るのではなく、
そして、腟粘膜を整えることと、Lactobacillusが暮らしやすい環境を整えること、その両方を大切にする。
ホルモン治療だけでは十分な改善が得られない女性にとって、乳酸菌という選択肢が、いつか科学的根拠に支えられた新しい治療の一つになってほしい。
今回の研究は、その未来を少し見せてくれたように感じました。
まだ研究は始まったばかりです。
だからこそ、これからどのようなことが明らかになっていくのか、とても楽しみです。
私自身も、性交痛外来での腟分泌物培養を含め、これまで以上に細菌叢に注目しながら、一人ひとりの患者さんの症状と丁寧に向き合っていきたいと思います。
乾燥やヒリヒリ感、性交痛、頻尿、繰り返す膀胱炎のような違和感などは、一つの症状だけでなく、GSMや腟内環境、尿路、骨盤底などをあわせて確認することが大切です。
ラクトバチルス・腟内フローラについて詳しく知りたい方へ
ラクトバチルスや腟内フローラについては、テーマごとに詳しく解説しています。
Tsuboi I, Inoue S, Hirayama T, et al.
Gut, Vaginal, and Urinary Microbiome Alterations in Women with Genitourinary Syndrome of Menopause: A Systematic Review.
Maturitas. 2026; DOI: 10.1016/j.maturitas.2026.109031.
世界12か国・23研究・5,027人を対象に、閉経後女性の腟・尿路・腸のマイクロバイオームを統合的に検討したシステマティックレビューです。
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
産前産後から更年期まで、女性のライフステージに寄り添う診療と情報発信に取り組んでいます。性交痛、外陰部・腟まわりの痛み、デリケートゾーンの違和感など、相談しづらいお悩みにも丁寧に対応しています。



