なぜ今、ユースクリニックが必要なのか|女性が自分らしく生きるための性教育と相談できる場所
更新日:2026.10.05
女性が自分らしく生きるために、性の知識と相談できる場所を
なぜ今、日本にユースクリニックが必要なのでしょうか。
その背景には、長い間日本社会に残ってきた「女の子は性に興味を持つべきではない」「性について口にするのは恥ずかしいこと」という価値観があるように思います。
以前の日本では、性交渉は結婚して家庭をつくり、子どもを産むために行うもの、という考え方が強くありました。結婚する年齢も現在より若く、身体が成熟する時期と、結婚・妊娠・出産を迎える時期との間に、今ほど大きな隔たりはなかったのかもしれません。
しかし、社会は大きく変化しました。
女性の高学歴化が進み、男女雇用機会均等法の成立以降、女性が大学を卒業して働き、社会の中で責任ある役割を担うことが当たり前になりました。その一方で、就職、キャリア形成、経済的自立を優先すれば、結婚や出産の時期は以前より遅くなります。
人間の身体は、社会制度の変化と同じ速度では変わりません。
身体的・性的には成熟していても、社会的にはまだ学生であり、経済的にも自立の途中で、結婚や子育てができる状況にはない。この身体的成熟と社会的成熟の間に生じた長い時間を、私たちはどう生きるのか。その答えを、社会は若者、とりわけ女の子に十分示してこなかったように思います。
性成熟期に、誰かを好きになったり、性に関心を持ったり、性交渉について考えたりすることは、決して不自然なことではありません。
しかし、「女の子は性について知らない方がよい」という空気が残る社会では、避妊、性感染症、同意、妊娠、月経、性暴力、自分の身体を守る方法といった大切な知識ほど、表立って学びにくくなります。
「性交渉は何歳からが適切なのか」という問いにも、年齢だけで一律に答えることはできません。法律を守ることはもちろんですが、それだけでは不十分です。
本人が本当に望んでいるのか。相手との間に対等な関係と明確な同意があるのか。断ることができるのか。避妊と性感染症予防の知識があるのか。困ったときに相談できる大人や医療機関があるのか。
それらがそろって初めて、自分の身体について責任ある選択ができます。
女性の社会進出と、変わらない社会の仕組み
日本でいう「女性の社会進出」は、実際には、男性を中心につくられてきた社会へ女性が入っていくことだったのではないか、と感じることがあります。
女性の身体の変化、月経、妊娠、出産、子育てを自然に組み込んだ社会へ変わったというより、女性が従来の男性型の働き方に自分を合わせることを求められてきました。
かつて理想とされた「良妻賢母」と、現代社会が期待する「キャリアウーマン」との間には大きな隔たりがあります。その両方を同時に、しかも完璧に実現することを女性に求めるのは、とても難しいことです。
勉強をして、仕事を得て、自立してから結婚・出産した方がよい。一方で、妊娠・出産には身体的に適した時期がある。性については慎み深くあるべきだが、結婚後は自然に妊娠し、子どもを育てることを期待される。
このような矛盾した価値観の中で、若い女性は、自分の人生をいつ、どのように選べばよいのか分からなくなります。
私は、こうした社会と身体のずれ、そして定まらない価値観も、晩婚化や少子化の背景の一つになっていると考えています。
ただし、少子化を解決するために、女性へ早い結婚や出産を求めるべきとは思っていません。
必要なのは、若いうちから自分の身体と将来について正確な知識を持ち、人生の選択肢を自分で考えられる環境です。
若者に価値観を押しつけない場所
そのために、ユースクリニックが必要です。
ユースクリニックは、若者に特定の価値観を押しつける場所ではありません。
性に関心を持つことを責めず、性交渉をすることもしないことも尊重し、悩んだときには安心して相談できる場所です。
「親や先生に話したら怒られるのではないか」
「婦人科を受診したら、周囲から何か思われるのではないか」
「お金がない」
「保護者に知られるのが怖い」
「そもそも、こんなことを相談してよいのか分からない」
そのような壁を低くし、「ここには頼ってよい大人がいる」と若者に伝えることが、ユースクリニックの大きな役割です。
スウェーデンで感じた、若者を社会で支える仕組み
私は医学生の頃、スウェーデンのリンシューピング大学で実習する機会があり、また、スウェーデン人友人の自宅で一緒に暮らし、お料理をして、夜中まで女性の生き方について、子育てについて話し合いました。この経験から、子どもを1歳位には、親の教育だけでなく保育の先生の教育も受けさせたいため、保育園に預けよう。教育に対する意見をきちんと持てる母親になろうと思ったことが、昨日のことに様に思い出されます。
スウェーデンは福祉国家であったことが有名で、医療や教育が無償であるだけでなく、若者が自立して生きるための支援が、社会の仕組みとして用意されていることに強い感銘を受けました。
そして、若者が性や身体、心、人間関係について気軽に相談できるユースクリニックが、身近な場所として根づいています。
日本でも、若者が正しい知識を得て、自分の身体と人生を自分で選択できるようにしなければなりません。
それは、女の子に「こう生きなさい」と教えることではありません。一人ひとりが自分らしく、自立した女性へ成長することを支える教育と医療です。そして、この状況を理解する男の子への教育の丁寧に行わなければなりません。
女性の生き方が多様になった今こそ、性教育、医療、学校、家庭、社会をつなぐ場所が必要です。
この少しいびつになってしまったこの社会の関係を、もっと自然で、もっと生きやすいものにしたい。
若い方が、性や身体について悩むことを恥じず、自分の未来を自分で選べるようにしたい。
その思いから、私は東京都のユースクリニック事業に参加することを決めました。
当院が、若い方にとって「困ったときに頼ってよい場所」「相談だけでも来てよい場所」になれるよう、産婦人科医として一人ひとりの声を受け止めていきたいと思います。
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
産前産後から更年期まで、女性のライフステージに寄り添う診療と情報発信に取り組んでいます。性交痛、外陰部・腟まわりの痛み、デリケートゾーンの違和感など、相談しづらいお悩みにも丁寧に対応しています。



