卵巣がん初期症状は?罹患しやすいリスク要因は?がん進行スピード・生存率・検査方法から治療法まで女医が丁寧に解説。
更新日:2025.01.02
卵巣がんは、子宮頸がんと比較するとあまり耳にすることはない病気かもしれませんが、女性性器悪性腫瘍の中では、診断が難しく死亡者率が多いがんです。
早期発見がとても大切なのですが、なかなか見つけにくいという性質があります。
今回は、卵巣がんについて特徴、症状、検査、治療など総合的なご紹介をいたします。 ご自身の健康を意識する1つのきっかけとなれば幸いです。
卵巣がんとは?
まずは、卵巣がんという疾患について詳しくご紹介します。卵巣がんの特徴
卵巣は、骨盤内の子宮の両側に、左右1つずつあります。
子宮と骨盤壁からの靭帯でつりさげられるような形で存在しており、かなり腫瘍が大きくならなければ圧迫感などの症状は出てきません。卵巣ではエストロゲン及びプロゲステロンが作られていますが、卵巣がんになっても月経に異常をきたすことがない場合があり、早期発見が難しいがんの1つです。
卵巣にできる腫瘍には、発生する部位(組織)から大きく「上皮性腫瘍/じょうひせいしゅよう」「胚細胞腫瘍/はいさいぼうしゅよう」「性索間質性腫瘍/せいさくかんしつせいしゅよう」の3種類があり、そのうち上皮性腫瘍が最も多いです。
それぞれに良性・境界悪性・悪性の腫瘍があり、多くのケースは良性腫瘍に分類されます。
上皮性腫瘍/じょうひせいしゅよう
卵巣の外側を覆う上皮細胞から発生するもので、どの年齢層にも発生しうる腫瘍です。卵巣がんのうち約90%を占めます。
胚細胞性腫瘍/はいさいぼうしゅよう
卵子になる前の生殖細胞から発生する腫瘍で、とくに良性の類皮嚢胞(るいひのうほう)は20〜30代に多いです。卵巣がんのうち約5%を占めます。
性索間質性腫瘍/せいさくかんしつせいしゅよう
卵胞やその周辺の細胞から発生するもので、どの年齢層にも発生しうる腫瘍です。
卵巣がんの性質と進行スピード
卵巣がんの性質は、組織型・異型度により異なります。
病理検査により確定診断するため、画像などだけで詳細を判断することはできません。
「漿液性がん/しょうえきせいがん」
最も多いタイプで、低異型度と高異型度に分類されます。
高異型度の漿液性がんは進行が早いものの、化学療法が比較的有効です。
「明細胞がん/めいさいぼうがん」
すべてが悪性度の高いタイプであり、悪性度の分類はありません。進行はゆっくりですが、早期発見による手術療法が大切です。
特に子宮内膜症由来の明細胞がんは、化学療法に抵抗性で予後不良です。
「類内膜がん/るいないまくがん」
比較的少ないタイプで、グレード1〜3に分類され、グレード3は悪性度が高くなります。
類内膜がんはグレードの低いものが多く、進行もゆっくりな傾向にあり、化学療法が効きにくい性質があります。
粘液性がん(ねんえきせいがん)
グレード1〜3に分類され、発生頻度は低いものの、大きく成長することが特徴です。
ただし、進行する例は稀で、化学療法が効きにくい性質があります。
卵巣がんは増加傾向!
【資料1】2020年の卵巣がん年齢階級別罹患率
【資料2】2022年の卵巣がん年齢階級別の死亡率推移
【資料3】2022年の卵巣がん死亡数
現在、年間12,000〜13,000人ほどの方が新たに卵巣がんと診断され、毎年5,000人以上の方が亡くなっています。同じく女性特有のがんである「子宮頸がん」は、毎年3,000人の方が亡くなっておりますが、卵巣がんも決して少なくありません。
日本では、卵巣がんに罹患する方が過去数十年にわたり増加を続けています。
卵巣がんと診断された方は1990年には約5,600人でしたが、2010年には約9,900人、ここ数年は12,000〜13,000人となっています。40代ごろから増えてきて、最も発症が多いのは50〜60代です。
死亡率は、医学の進歩により少しずつ減少してきていますが、生活の変化や高齢化などにより罹患者が増えていることから、死亡者数も少しずつ増加傾向となっています。
卵巣がんの初期症状はわかる?
卵巣がんは「サイレントキャンサー」とも呼ばれており、初期には自覚症状が全くないという点が厄介です。
大きくなったり転移したりして、初めて症状が出てきます。
ですから、がんを早期に発見するためには、何も症状がないうちに定期的に婦人科へ通院し、超音波検査にて卵巣の形態をすることが重要です。 ある程度大きくなってくると、次のような症状が出てきます。
・腹部が膨らむ、ウエストサイズが変わる
・下腹部の張り
・お腹にしこりが触れる
・便秘、下痢
・頻尿 ・食欲がない
・腰痛
・腹水がたまる
急に強い下腹部痛が現れた場合は、卵巣がんが破裂した可能性も考えられます。
卵巣がんになりやすい要因とは?
卵巣がんの発生には、複数の要因が関係しているようです。
中でも、排卵の回数が多いということが、大きな要因として知られています。現在わかっている、卵巣がんのリスク要因についていくつかご紹介します。
リスク要因に複数当てはまる方は、当てはまらない方と比べて、卵巣がんになりやすいといえるでしょう。
排卵回数が多い
以下のような方は、排卵の回数が多くなり、卵巣がんのリスクが高いといえます。
・出産歴がない、初産が遅い
妊娠している期間が少ないということは、それだけ生涯の間で排卵の回数も多いということになり、リスクを高めます。
・排卵誘発剤の使用
不妊治療で排卵誘発剤を複数回使うことも、卵巣がんのリスクを高めます。
・初潮が早い、閉経が遅い
月経のある期間が長いということは、その分だけ排卵の回数が多いため、卵巣がんのリスクとなります。
生活習慣
生活習慣の中にも、卵巣がんの発生と関連する要因があります。
・欧米的な食生活(動物性脂肪やタンパク質摂取の増加)
動物性脂肪やタンパク質の摂取が多いと、卵巣がんの発生が増えると言われています。日本で卵巣がんは増えていますが、それでも欧米よりも罹患率は低いです。
・肥満
肥満は卵巣がんの予後不良因子として知られています。脂肪細胞からエストロゲンに似た物質が作られるためです。
・睡眠時間が短い
睡眠時間が6時間未満の場合、7時間以上の方と比較すると卵巣がんのリスクが高いという報告があります。
・喫煙
卵巣がんに限ったことではありませんが、喫煙は発がん性が高く、がん発生のリスクを高めます。
婦人科系の疾患や治療
婦人科系の疾患が、卵巣がんの発生と関わるケースもあります。
・多嚢胞性卵巣症候群
月経のある女性の約10%が罹患していると推測されるほど頻度の高い疾患です。卵胞が十分に成長しないまま卵巣内に止まり、大きく腫れます。卵巣がんだけでなく、子宮体がん、乳がんなどのリスクも高めることがわかっています。
・子宮内膜症
子宮内膜症も、妊娠回数の減少で月経回数が増えたことにより、罹患する人数が増えてきた病態です。子宮内膜のような組織が卵巣に発生した場合(チョコレート嚢胞)、卵巣がんへ進展することがまれにあります。
・10年以上にわたるホルモン補充療法
とくに、エストロゲン単剤によるホルモン補充療法を受けていた場合、卵巣がんのリスクが高くなると報告されています。
遺伝的要因
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群や、リンチ症候群など、遺伝的要因による卵巣がんも、全体の約10%を占めます。
卵巣がんのステージと生存率
卵巣がんのステージは、手術の後に決定されます。切除した卵巣を調べなければ、がんがどの程度広がっているか正確な評価ができないためです。
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I |
腫瘍が片側ないし両側の卵巣内に限局している |
88.7% |
II |
がんが卵巣を越えて広がっているが、 |
74.9% |
III |
腫瘍が骨盤外の腹膜や後腹膜リンパ節に転移している |
45.1% |
IV |
腫瘍が遠隔部位に転移している |
27.1% |
ステージIまたはIIでは、自覚症状がなく、検診で見つかることがほとんどです。
ステージIII以上に進行してくると、腹部のしこり、太ったわけでもないのにウエストがサイズアップするといった異変を感じるようになります。
自覚症状が乏しいという性質もあり、ステージIIIまたはIVの状態で見つかる方が、約半数を占めます。
卵巣がんを早期発見するためには?
卵巣がんは、初期には自覚症状がないとお伝えしました。
早くに卵巣がんを見つけるためには、症状がないうちから超音波検査で定期的に検査をするしかないのですが、「卵巣がん検診」のように確立されたものはありません。初期の卵巣がんは非常に見分けにくいのです。
卵巣がん以外にも、年齢とともに増えていく疾患はいくつもあります。
20歳を越えたら子宮頸がん検診が推奨されていることもありますので、最低でも1〜2年に1回は婦人科検診をすることをおすすめします。 少なくとも、30歳以上の方は、かかりつけの婦人科を持ち、年に1度の定期的な受診をしてください。
また、小さなお子様や小学生、中学生、高校生の腹部膨満の場合
卵巣腫瘍は比較的まれではありません。腹部超音波検査でも診断可能な卵巣腫瘍が多いので、腹部膨満感、腹痛、不正出血のある方は、積極的に婦人科受診をお勧めします。
卵巣がんの検査・治療
卵巣がんを疑った場合に実施する検査や、診断されてからの治療について解説いたします。卵巣がんの検査方法
症状などから卵巣がんを疑う場合、次のような検査を実施します。
・問診
いつから、どのような症状があるのか、妊娠・出産の回数や、これまでに罹患した疾患やその治療などを伺います。
・触診
腹部を触診し、しこりの状態やお痛みなどについて確認します。
・超音波検査
卵巣の状態、大きさ、周囲の臓器との位置関係などを調べます。
・CT/MRI/PET
必要に応じて、CTやMRI、PET検査をします。腫瘍の広がりや遠隔転移の有無、腫瘍内部の状態などを確認できます。
・病理検査
手術で摘出した卵巣の組織を調べ、悪性度や組織型の判定をおこないます。胸水や腹水がある場合、中にがん細胞が含まれていないかどうかを確認することもあります。
卵巣がんの治療方法
治療には、大きく分けて手術と化学療法(抗がん剤治療)があります。
【手術】
卵巣がんが疑われる場合、卵巣腫瘍の悪性か良性かの診断のため、手術療法で組織を摘出します。同時に、悪性の場合、ステージ分類や組織型の判定、また、がんをできるだけ取り切ることを目的に手術をおこないます。卵巣がんは、可能な限り初回の手術で腫瘍をしっかり取り除くことが重要です。
初回の手術で腫瘍切除が難しい場合には、試験回復術(組織型を診断し、可能な範囲で手術進行機を確認するための手術)を実施します。その後、抗がん剤治療を実施し、腫瘍をある程度小さくできれば、追加手術で残りの腫瘍切除が可能な場合もあります。
手術後は、腸閉塞やリンパ浮腫、リンパ嚢胞といった合併症が出ることもありますが、初回の手術の状況によります。また、両側の卵巣を摘出することで、更年期障害のような症状に悩まされることもあります。 合併症に対しても、それぞれの病態に必要な治療を実施していきます。
【化学療法(抗がん剤治療)】
進行がんの場合、術後に手術の効果を高める目的の化学療法(抗がん剤治療)を実施することが多いです。卵巣がんの多くを占める「漿液性がん」は抗がん剤治療が効きやすい性質があります。 また、腫瘍の大きさを小さくして、できるだけ手術で腫瘍を取り切ることを目的に、術前に抗がん剤治療を実施する場合もあります。
早期(ステージI)かつ低異型度の卵巣がんの場合は、術後の抗がん剤治療をおこなわずに経過を見ていくこともあります。いずれにせよ、手術に立ち会った主治医の病態の総合的な評価と治療方針が重要です。
卵巣がんを予防するには
卵巣がんを予防するための方法として、確立したものはありません。 ですが、リスクとなる要因を減らすこと、症状のないうちから定期的に状態を見ておくことは、有用だと思われます。
・適正体重を保つ
・禁煙をする
・子宮内膜症の場合、適切な治療を行い、定期的に腫瘍マーカーおよび超音波検査などの評価をおこなう
・ホルモン補充療法をしている方は定期的ながん検診
また、低用量ピルの服用は卵巣がんのリスクを下げることがわかっています。月経でお悩みの方は、ご相談ください。
卵巣がんにまつわるQ&A
卵巣がんに関連し、よくあるご質問について、お答えいたします。Q. 卵巣嚢腫と卵巣がんの違いは何ですか?
卵巣嚢腫は、良性の卵巣腫瘍の一種で、卵巣内に液体やゼリー状の粘液、髪の毛や脂肪などで構成されたものです。 卵巣がんは、卵巣腫瘍のうち、悪性のものを指します。液体ではなく、細胞成分が詰まっている充実性腫瘍です。
卵巣嚢腫のうち、子宮内膜様の組織が卵巣に溜まった「チョコレート嚢腫(チョコレート嚢胞)」は、サイズが大きい場合や45歳以上の場合などに、卵巣がんへ進展するケースがあります。
サイズが大きい場合や大きくなるスピードが速い場合、腫瘍マーカーが上昇していく場合には、早期の手術療法をおすすめいたします。非常にまれですが、腫瘍の大きさが変わらないが転移してはじめて診断がつく卵巣がんの場合もあります。
Q. 卵巣がんが再発する可能性はどのくらいですか?
卵巣がんは、半数以上で再発します。 治療から2年以内がとくに多く、ステージIIIまたはIVの場合、2年以内に約55%、5年以内に70%以上が再発することがわかっています。追加の手術療法は難しい場合が多く、組織型によって化学療法、放射線治療などが選択されます。Q. 卵巣がんはなぜ腹水がたまるのですか?
卵巣がんが大きくなり、腹腔内にある臓器を包んでいる腹膜に転移した場合に微少炎症が起き起こされ、腹水が生じるようになるのです。 良性腫瘍でも腹水を生じることはありますが、腹水が多い場合、卵巣がんを疑います。
まとめ
今回は、女性性器悪性腫瘍の1つである卵巣がんについて、幅広く情報をお伝えしました。
子宮頸がんより多く、毎年5,000人以上の方が亡くなっています。 初期症状がなく、進行するまで気が付きにくい点が特徴です。
何も症状のないうちから、かかりつけの婦人科を持ち、定期検診する習慣を持つことをおすすめします。
白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。