卵巣嚢腫とは？茎捻転とは？その症状からリスク要因や小さくする方法・治療法を女医が丁寧に解説。

女性特有の疾患はいくつもあります。その中の1つである卵巣嚢腫（のうしゅ）は、自覚症状に乏しく、発見の難しい疾患です。

今回の記事では、卵巣嚢腫について、特徴や検査方法、治療方法など、幅広くお伝えします。

思い当たる 自覚症状のある方、しばらく婦人科検診を受けていない方などは、この記事をきっかけに受診していただければ幸いです。

 

卵巣嚢腫とは？

まずは、卵巣嚢腫がどういったものか、詳しく解説します。

卵巣嚢腫と卵巣がんの違い

卵巣嚢腫

卵巣嚢腫は、卵巣腫瘍のうち、良性で、卵巣内に液体やゼリー状の粘液、髪の毛や脂肪などで構成されたものです。卵巣腫瘍の80〜90％程度は卵巣嚢腫に分類されます。女性全体の5〜7％程度に卵巣嚢腫があると報告されており、比較的罹患率は高いです。

卵巣がん

一方、卵巣がんは、卵巣腫瘍のうち、細胞成分が詰まっている充実性腫瘍で、悪性のものを指します。充実性腫瘍も、良性・境界悪性・悪性（卵巣がん）に分けられます。

卵巣がんの詳しい解説はコチラ

卵巣嚢腫の検査方法

卵巣嚢腫は、超音波検査で見つかることが多いです。
問診・内診・超音波検査を組み合わせ、必要に応じCT/MRIなどの画像検査や血液検査なども実施します。

確定診断のためには、手術で組織を摘出し、病理検査をおこなわなければなりません。良性腫瘍の可能性が高いと考えられ、無症状で、サイズが小さいものであれば、すぐに治療はせず定期的な経過観察とする場合があります。

良性と悪性の鑑別法は？

超音波検査、MRI、腫瘍マーカー（血液検査）などの結果を総合して判断します。

【良性腫瘍に特徴的な所見】

画像検査で以下の特徴を確認します。
・辺縁が平滑
・壁の肥厚や不整がない
・充実部分を認めない（上皮性・間質性の場合）
・全体が充実性（性索間質性の場合）

【悪性腫瘍に特徴的な所見】

・腫瘍の辺縁が不整
・充実性の部分がある
・腹水がある
・腫瘍マーカーの異常高値
・急激な増大

卵巣がん・境界悪性腫瘍・卵巣嚢腫の発生リスクは？

卵巣がんや境界悪性腫瘍を発生させるリスク要因として、以下のようなものが知られています。

・排卵回数が多い

出産歴がない方や、初潮が早い方、閉経が遅い方、不妊治療で排卵誘発剤を複数回使用した方などが該当します。

・欧米的な食生活

動物性脂肪やタンパク質の摂取が多いと、卵巣がんの発生が増えると言われています。

・喫煙

卵巣がんをはじめ、あらゆるがんの原因です。

・子宮内膜症（チョコレート嚢胞）

チョコレート嚢胞は、45歳以上やサイズが大きい場合などに、がん化のリスクがあります。

卵巣嚢腫については、発生する原因がはっきりしておりません。

 

卵巣嚢腫の4つの種類

卵巣嚢腫には代表的なものが4種類あり、それぞれに特徴があります。

漿液性嚢胞腺腫（しょうえきせいのうほうせんしゅ）

卵巣嚢腫のうち、さらっとした「漿液」が含まれているものです。
上皮性腫瘍の一種で、40〜60歳代の方に多く、ほかの種類に比べると両側の卵巣に生じる割合も高い傾向にあります。

粘液性嚢胞腺腫（ねんえきせいのうほうせんしゅ）

卵巣嚢腫のうち、ゼリー状の「粘液」が含まれているものです。
上皮性腫瘍の一種で、ほとんどは片方の卵巣に生じます。巨大化しやすい点が特徴です。

皮様嚢腫（ひようのうしゅ）

嚢腫の内部に、脂肪や毛髪、皮膚組織、骨など多様な成分が含まれたものです。
デルモイドや、成熟嚢胞性奇形腫と呼ばれることもあります。10代など若い方にも発症することがあり、両側性が多いです。卵巣嚢腫の中では比較的頻度の高いタイプです。

チョコレート嚢胞（ちょこれーとのうほう）

内膜症性卵巣嚢腫のことです。子宮内膜症の一種で、卵巣内に内膜様の組織が溜まった状態を指します。

子宮内に生じる内膜は、月経に伴って腟から体外へ排出されますが、卵巣内に溜まった内膜様の組織は体外へ排出されません。月経痛、性交痛、骨盤痛などのつらい自覚症状が出るほか、内膜症がある正常卵巣組織からの排卵障害、卵管閉塞など不妊症の原因となる場合もあります。

チョコレート嚢胞の場合は、低用量ピルやジェノゲスト、レルゴリスクなどの治療が有効です。
内服治療を長く続けていると、だんだんと嚢胞が小さくなるのです。年齢、挙示希望の有無、症状の程度などにより、手術を選択するケースもあります。

サイズが大きい場合や45歳以上で急激に大きくなる場合などに、卵巣がんへ進展するケースがあり、注意が必要です。

 

卵巣嚢腫の自覚症状やチェック方法

次に、卵巣嚢腫を疑う症状があるのかどうかについて、お伝えします。

卵巣嚢腫の自覚症状はほとんどない

卵巣嚢腫は、初期の段階で症状を感じることはほとんどありません。

卵巣は、子宮と骨盤壁からの靭帯でつりさげられるような形で左右に1つずつ存在しており、かなりサイズが大きくならなければ圧迫感などの症状は出てこないのです。

卵巣嚢腫が大きくなってくると、以下のような症状が出てくるかもしれません。

・腹部が膨らむ
・お腹にしこりが触れる
・下腹部の張り
・便秘、下痢
・頻尿

※チョコレート嚢胞の場合の症状

月経痛、性交痛、骨盤痛などを生じやすいため、ほかのタイプの卵巣嚢腫よりも気がつきやすいです。

卵巣嚢腫茎捻転とは？

卵巣嚢腫茎捻転といって、腹腔内で卵巣嚢腫が捻れ、急激な強い腹痛を生じる病態もあります。

一般的に、5～6cmのサイズになると卵巣嚢腫茎捻転のリスクが高まり、処置が遅れると壊死して卵巣機能を失ってしまうこともある、危険な状態です。超音波検査で比較的わかりにくい病態です。緊急手術により、卵巣機能が温存される場合もあります。

皮様嚢腫は比較的捻転しやすい腫瘍です。
卵巣嚢腫の破裂の場合で急激な強い腹痛を生じる場合もあります。超音波検査にて比較的わかりやすい病態です。内容物が腹膜を刺激することにより、疼痛が出現します。緊急手術が必要な場合が多いです。

症状のセルフチェックはできる？

自覚症状などからセルフチェックをし、卵巣嚢腫を発見するのは現実的ではありません。

卵巣は子宮の左右両側にそれぞれ2つあり、月経周期に合わせ、日頃から卵胞の発育により膨らんだりしぼんだりを繰り返しています。片方に卵巣嚢腫ができて多少腫れても、月経に影響したり、違和感を感じたりしにくいのです。

自覚がないことから、卵巣嚢腫は、婦人科での定期検診の際や、便秘での消化器内科の受診時やCT検査、人間ドックなどで、偶然に発見されるケースが多いです。

定期的な婦人科検診（超音波検査）を受けることが、早期発見のために重要です。

 

卵巣嚢腫の治療

卵巣嚢腫の治療法は、嚢腫のタイプにより異なります。

チョコレート嚢胞の場合

チョコレート嚢胞の場合は、ホルモン療法が効果的です。

月経困難症として、各種低用量ピルや、ジェノゲスト、レルゴリスクを服用することで、月経痛や骨盤痛などの症状が和らぐだけでなく、チョコレート嚢胞の縮小も期待できます。GnRHアゴニストを用いた偽閉経療法を選択するケースもあります。

チョコレート嚢胞以外の場合

チョコレート嚢胞以外の卵巣嚢腫には、治療薬がありません。

小さな場合は経過観察とすることもできますが、症状が出てくるほど大きな場合や、悪性腫瘍との鑑別が難しい場合などは、手術が必要となります。腹腔鏡下での手術が可能な場合が多いです。

卵巣機能を温存したい（挙児希望がある）場合は、卵巣のう腫核出術（卵巣嚢腫だけを摘出し、卵巣機能を温存する手術）を検討します。ただし、根治的な手術ではありません。

根治を目的とする場合には、片方または両方の付属器（卵巣・卵管）を摘出する手術を実施します。腹腔鏡手術ができるか、開腹手術が必要かは、腫瘍のサイズや性状によります。

 

卵巣嚢腫と不妊・妊娠への影響

婦人科系の疾患をお持ちの方は、妊娠が可能かどうかなど不安を感じられることが多いです。卵巣嚢腫と妊娠や不妊との関連についてお伝えします。

卵巣嚢腫と不妊との関係性

卵巣嚢腫が、必ずしも不妊に繋がるわけではありません。

卵巣嚢腫によって正常な卵巣組織が圧迫されても、たいていは排卵が起きており、排卵障害となることは少ないです。不妊治療として卵巣嚢腫の手術が必要になる例は、比較的まれといえます。 卵巣嚢腫の手術では、少なからず正常な卵巣組織も提出することになり、卵巣機能が低下するリスクがあるため、慎重な判断が重要です。

チョコレート嚢胞は、卵巣周囲の組織へ癒着し、月経時などに強い痛みを生じるだけでなく、卵管に癒着が生じた場合は不妊の原因となります。また、卵子の質の低下を招くとも言われています。ホルモン療法が奏功しますので、将来的に子供を持ちたいと考えている方は、早いうちからホルモン療法を始めるとよいでしょう。

妊娠時に必要な配慮

妊娠時の検診で、偶然に卵巣嚢腫が見つかる方も、一定数おられます。

破裂する、卵巣嚢腫茎捻転を起こす、経腟分娩の障害になるなど、妊娠中は卵巣嚢腫によるトラブルのリスクが非妊娠時よりも高いです。

10cm以上など非常に大きなもの、6cm程度でも漿液性嚢腫・粘液性嚢腫・充実性部分を含む皮様生嚢腫などの場合は、詳細な検査ののち、手術を検討します。

胎児が大きくなってからの手術では、腹腔鏡手術の難易度が上がったり、創部の創傷治癒が難しくなったりするため、妊娠が安定した妊娠12〜18週程度で実施するのが一般的です。

チョコレート嚢胞だけは、妊娠中に月経が生じないために縮小することも期待できます。慎重に経過観察をおこない、もし増大した場合には手術を検討します。

 

卵巣嚢腫にまつわるQ&A

卵巣嚢腫について、よくあるご質問にお答えします。

Q. 卵巣嚢腫は自然に小さくなりますか？

基本的に、良性悪性にかかわらず、卵巣嚢腫は自然に小さくなることはありません。

サイズはゆっくりと大きくなっていきますが、急激に大きくなる場合には悪性腫瘍を疑うため、精査が必要です。定期的な確認をいたしましょう。 一部、卵胞嚢胞・黄体嚢胞などの「機能性卵巣嚢胞」と呼ばれる種類の卵巣の腫れは、月経周期に伴って大きくなるもので、月経が終わると小さくなり消失します。

時期をずらしながら何度か状態を確認し、機能性卵巣嚢胞なのか、卵巣嚢腫なのかを見極めます。

Q. 卵巣嚢腫があっても、性行為に問題はないですか？注意することは？

卵巣嚢腫があることで、性行為がおこなえないということはありません。

ただし、チョコレート嚢胞や大きな卵巣嚢腫の場合、性交痛を生じることがあります。
大きな卵巣嚢腫があれば、違和感や圧迫感を覚えることもあるでしょう。 女性に痛みやつらさがないかどうかをよく確認し、思いやりを持って性行為をおこなうようにしてください。

激しいピストン運動をしない、痛みの出にくい体位を探すなど、工夫次第で性行為は可能です。性交時に卵巣嚢腫が破裂することもあります。

Q. 卵巣嚢腫は再発しやすいですか？

卵巣を温存している限り、卵巣嚢腫の再発リスクは誰にでもあります。

中でも、チョコレート嚢胞は再発率が高いです。手術を終えたからといって、婦人科への通院を終わりにせず、引き続き定期的に検診を受け、手術所見により内膜症の治療をおこないましょう。

根治的に左右両方の付属器（卵巣・卵管）を摘出した場合は、再発はしません。

Q. 卵巣嚢腫は月経に影響しますか？

チョコレート嚢胞の場合は、月経痛が出やすいです。
そのほかの卵巣嚢腫では過多月経など、月経に影響が出ることはほとんどありませんが、不正出血で発見される場合が多いです。

まとめ

今回は、卵巣嚢腫の特徴や治療法などについて詳しく解説しました。

あまり自覚症状のない疾患ですが、大きくなれば排便・排尿に影響したり、卵巣嚢腫茎捻転や破裂を起こすリスクがあったりと、早期診断は重要です。

また、稀ではありますが悪性化（がん化）の可能性もあります。 卵巣嚢腫をはじめ、女性特有の疾患を早期発見するため、定期的に婦人科で検診を受けましょう。

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