トリコモナス腟炎とは?黄緑のおりもの・泡・臭いに注意!症状・検査・治療法を女医が解説。
更新日:2025.07.16
おりもののにおいや色の変化、かゆみやヒリヒリ感など、デリケートゾーンの不調に悩まされていませんか?
おりものは、女性の健康状態により敏感に変化するバロメーターです。
もし、黄緑色で泡のようなおりものが出ているのであれば、トリコモナス腟炎の可能性があります。
無症状の方も多く、すぐには症状が出ないという厄介な感染症です。
今回の記事では、近年患者数が増えている「トリコモナス腟炎」の原因・症状・治療法・注意点などについて、詳しく解説していきます。
目次
トリコモナス腟炎とは|クラミジアやカンジダとの違いも解説
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トリコモナス原虫が腟内に寄生して生じる感染症です。
膣トリコモナス症(Trichomonas vaginalis)は、世界的にも感染者数が非常に多い性感染症であり、2020年には15~49歳の間で新たに約1億5600万人が感染したと報告されています(出典:日本WHO協会)。
残念ながら、トリコモナス感染症は国内では感染症法の定点報告対象外のため、厚労省や国立感染症研究所から最新の全国的な発生数や増加傾向の公式統計は出されていません。
ただ、性感染症全体については、特に新型コロナ禍の規制緩和以降(2022年以降)に一部疾患(クラミジア・淋菌・梅毒など)が再増加していることが公表されており、臨床現場でも注意が必要だなと感じています。(出典:厚生労働省)
主に性行為で感染しますので、他の性感染症と同様に、パートナーと同時の治療が大切です。どちらかがトリコモナスに感染しているとわかった場合、パートナーの方も必ず検査・治療をしましょう。
デリケートゾーンに症状を起こす疾患は、クラミジア感染症や腟カンジダ症などさまざまなものがあり、症状や治療法も違います。しっかり区別をして治療することが重要です。
次から、トリコモナス腟炎について、さまざまな観点から詳細に解説いたします。
女性の主な症状|黄緑色・泡状・悪臭のおりものに注意

トリコモナスに感染しても、20〜50%ほどの女性は無症状に経過しますが、感染から半年ほど経って症状が出てくる方もおられます。
「心当たりがないのに…」とおっしゃる方も多いですが、症状が出るまでに時間がかかるという特徴から、感染した時期をピンポイントで特定するのは難しいです。
女性の場合、トリコモナス腟炎の症状は比較的強くなります。
主な症状

・黄色〜黄緑色で泡状のおりものが多量に出る
・おりものは生臭いような強い悪臭を伴う
・デリケートゾーンの強いかゆみ、ヒリヒリ感
・排尿時痛
【Check Point】再感染リスク
治療が不十分だと、トリコモナス原虫がわずかに腟や子宮頸管、尿路などに残ってしまい、再感染を招くこともあります。経血中でトリコモナスが増殖してしまうことがあるため、治療後1回目の月経が終わったあと、再検査することも大切です。
男性のトリコモナス感染|ほとんど自覚症状なし?

男性は、トリコモナス原虫に感染してもほとんどの方が無症状で、治療に結び付かず保菌者となりやすいです。
感染率は50%以上と高いため、気が付かないうちに、パートナーへ感染を広げてしまうというケースが多くなっております。
次のような症状が出る場合もあります。
・軽い尿道炎(尿道のかゆみ、痛み)
・排尿時の違和感、痛み
・膿のような分泌物が尿道から出る
尿道から感染が広がり前立腺炎になると、排尿のしにくさ、残尿感、頻尿といった症状があらわれます。男性も、女性と同様に感染からすぐには気がつきにくい性質があるため、「心当たりがない」というケースが非常に多いです。
男女の検査結果の留意点
また、「男性は、女性に比べてトリコモナス原虫の検出が難しい」という点について、知っておいてください。
女性だけに感染がわかったからといって、女性が不貞行為をしているということではありません。パートナーの女性に感染がわかったら、男性も治療をするのが基本となります。
感染の原因と感染経路|性行為以外でもうつる?

主な感染経路は、性行為です。
腟への挿入での感染がほとんどですが、肛門性交で感染する場合もあるようです。トリコモナスは感染力が強いため、性行為による感染率は50%以上にものぼります。
性行為以外の感染
また、トリコモナスは、人の体外でも湿気のある環境であれば一定期間生息することが可能です。そのため、タオル・便座・湯船などの共有により感染するケースも時々見られます。
性行為の経験のない方や子どもでも、感染した例はあります。
検査と診断方法|婦人科での受診タイミングとは

おりものの量・色・臭いや、デリケートゾーンのかゆみなど、異変を感じたら早めに婦人科へいらしてください。
こうした症状が見られた場合、次のような検査をおこないます。
・問診
いつから、どのような症状があるかなどをお伺いします。
・内診、検体採取
内診でおりものの状態を目で確認し、また、おりものを採取します。
トリコモナスの場合、その場で顕微鏡により確認可能ですが、クラミジアなど、他の性感染症を合併しているケースもあるため、おりものを培養検査に提出して調べます。
また、子宮がん検診と行った際に、同時に検出されることがあります。近年、トリコモナスPCR検査ができるようになり、検出率は上昇しております。
トリコモナスは、いつ?誰から?感染したのかを特定するのは難しいとお伝えしました。感染機会に心当たりがなく、不安になってしまう方もおられます。
大事なのは、しっかりと治療や再検査をおこなうこと、パートナーの方も一緒に治療をおこなうことです。
トリコモナス腟炎の治療法|自然治癒はある?

トリコモナス腟炎は、メトロニダゾールという抗原虫薬の腟錠や内服薬で治療をおこないます。
通常、治療期間は10日間程度です。自然に治癒することはありません。
放置するリスク
放置していると、もちろん他人への感染リスクを常に抱えた状態となってしまいます。また、体内で感染が広がると、卵管炎や骨盤内炎症性疾患に進展したり、不妊の原因になったりすることもあります。
男性の場合、慢性前立腺炎・精巣上体炎などになり、これらも不妊の原因です。
一方に感染がわかった場合
また、カップル・夫婦のどちらかに感染がわかった場合、もう片方も必ず治療を受けましょう。
男性は検査をしてもトリコモナス原虫を特定することが難しく、陰性と出てしまうことが多いです。女性に感染がわかった場合、男性は検査で検出されたかどうかに関わらず、治療が必要と考えます。
再検査の重要性
再検査で治癒を確認できるまで、治療中の性行為は控えてください。トリコモナスは非常に感染力が強いです。わずかにでも残っていると、再感染のおそれがあります。
トリコモナスに効果のある市販薬はありませんので、必ず医療機関で検査・治療をおこないましょう。
女性は婦人科(産科)や泌尿器科、男性は泌尿器科を受診してください。
トリコモナスとクラミジアの同時感染に注意

性感染症は、複数が同時に感染していることも多いです。
クラミジアと淋菌の同時感染は、聞いたことがある方もいるかもしれません。
トリコモナスの場合、クラミジアが同時に感染しているケースを、比較的多く経験しております。
クラミジアは、ほとんどの方が無症状です。
おりものの状態からトリコモナスを疑っているとしても、クラミジアをはじめ他の感染症もチェックした方がよいでしょう。
それぞれ治療に使う薬が異なりますので、1つの感染症の治療をしても、すべての感染症を完治させることができません。
妊婦・妊娠中の感染リスクとは?

妊娠中にトリコモナスに感染すると、次のようなリスクがあります。
・早産、早期破水になりやすい
・低出生体重児になりやすい
母子感染のおそれはありませんが、順調にお産を迎えるため、感染がわかったら速やかに治療することが大切です。妊娠中も、メトロニダゾールによる治療をすることができます。
妊娠中は免疫力の低下により、トリコモナス腟炎以外にも、腟カンジダ症や細菌性腟症なども発症しやすいです。
デリケートゾーンの違和感、おりものの変化などを感じましたら、産婦人科でご相談ください。
似た症状の疾患との違いを知っておこう

デリケートゾーンに生じる感染症は、症状は似ていることが多いです。
症状だけで見分けをつけるのは難しいといえます。
代表的な疾患について、以下にまとめました。
項目 | トリコモナス腟炎 | クラミジア感染症 | 腟カンジダ症 | 淋菌感染症 | 細菌性腟症 |
---|---|---|---|---|---|
原因 | トリコモナス原虫 | クラミジア(細菌) | カンジダ(真菌) | 淋菌(細菌) | 腟内の悪玉菌 |
感染経路 | 性行為、タオルや湯船の共有 | 性行為、精液や腟液が粘膜に触れると感染する | ストレスや疲労などをきっかけに発症、性行為で感染することもある | 性行為 | ストレスや疲労などをきっかけに発症 |
女性の症状 | おりものの変化(黄色〜黄緑色、悪臭、泡状)、デリケートゾーンのかゆみ、排尿時痛 | 80%以上が無症状、おりものの増加、排尿時痛、下腹部痛、不正出血 | おりものの変化(白、ヨーグルト状・ポロポロした性状、強い臭い)、デリケートゾーンのヒリヒリ・かゆみ | おりものの変化(黄色や黄緑色、膿のような性状) | おりものの変化(白〜灰色、生臭い、さらさら)、デリケートゾーンのかゆみ |
潜伏期間 | 10日前後 | 1〜3週間程度 | 該当なし | 数日〜1週間程度 | 該当なし |
感染率 | 50〜70% | 30〜50%程度 | 該当なし | 30〜50%程度 | 該当なし |
トリコモナスは、黄緑色で泡状のおりものが特徴的です。
ただし、淋菌感染症や細菌性腟症も、似たように見えることがあります。
特徴があるとはいえ、おりものの見た目・状態だけで正確な診断はできません。
いずれの疾患も自然に治癒することはなく、医療機関での治療が必要です。異変に気がついたら、早めにご相談ください。
よくある質問
トリコモナスに関連して、よくある質問にお答えいたします。
・トリコモナス腟炎は自然に治ることもありますか?
自然に治ることはありません。疑わしい症状があれば、必ず医療機関で検査・治療を受けてください。
・パートナーに心当たりがないのに、なぜ感染したのでしょうか?
トリコモナスは、感染してから症状が出るまで非常に長い時間がかかり、感染時期の特定は難しいです。また、男性は女性よりも症状が出にくいため、いつの間にか感染し、保菌者となっていることもあります。
また、公共の温泉やトイレで感染する可能性も考えられます。そのため、心当たりがないとおっしゃる方は多いです。
・黄緑色のおりものやにおいがあるのですが、必ずトリコモナスですか?
黄緑色のおりものは、トリコモナスに特徴的ですが、淋菌感染症の場合も黄緑色のようなおりものが出ます。泡っぽい性状であればトリコモナスの可能性が高くなりますが、そのほかの感染症の場合もあります。
いずれにせよ、治療しなければ治癒しません。医療機関で検査・治療をしましょう。
・治療中は性行為を控えた方がいいですか?
はい。治療をして1回目の月経が終わり、再検査で治癒が確認できるまで、性行為は控えてください。トリコモナスは感染力が強く、わずかに残ったものからも再感染してしまう可能性が高いです。
ピンポン感染を防ぐため、治療中の性行為はやめましょう。
・妊娠中でも治療は可能ですか?胎児への影響は?
妊娠中でも、時期を考慮はいたしますが、胎児への影響は心配なく治療をすることが可能です。治療をせずにいると早産や流産のリスクが高くなりますので、主治医の指示のもと、しっかりと治療をしましょう。
まとめ|「おかしい」と思ったら早めの受診を

トリコモナス腟炎は、早期に適切な治療を受ければきちんと治る感染症です。
しかし、症状がはっきりしないことも多く、知らないうちにパートナーに感染を広げてしまうこともあります。
黄緑色で泡状のおりもの、強いにおい、デリケートゾーンのかゆみなど、何か異変を感じたら、早めに婦人科を受診しましょう。
また、トリコモナス腟炎はクラミジアなど他の性感染症と合併していることも珍しくありません。検査では、複数の感染症を確認することが大切です。市販薬では治療ができません。
感染が判明した場合は、パートナーと一緒に治療を受け、再検査で治癒を確認するまで性行為は控えましょう。
性行為以外での感染もありえます。
デリケートゾーンの症状は、「恥ずかしい」という気持ちから受診が遅れがちです。
当院は、医師を含めスタッフはすべて女性ですので、お気軽にいらしてください。
大切な体を守るため、早めのご相談をお待ちしております。
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。