クラミジアの感染経路に心当たりがない…原因は?自然治癒は?女性が知るべき潜伏期間や治療法を女医が解説。
更新日:2025.02.15
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性感染症の診療をしていると、「心当たりがないのに、なぜ…」と非常に悩まれてしまう方によく出会います。とくに、症状の出にくい「クラミジア感染症」などは、どこで感染したのかわからず、パートナーと揉めてしまうケースも少なくありません。
今回は、「心当たりのないクラミジア感染」という状況に着目し、さまざまな観点からクラミジア感染症について解説いたします。「なぜ・どこで感染したのか」「なぜパートナーと検査結果が違うのか」などのお悩みの回答になれば幸いです。
クラミジア感染症とは?
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クラミジアの原因
クラミジア・トラコマチスという細菌が原因となって生じる感染症です。日本では最も多い性感染症で、2002年ごろから2015年までは感染者数が減少傾向でしたが、その後はまた感染者数が増えております。
主に性行為(腟への挿入のほか、オーラルセックス、アナルセックスなども含む)で感染します。腟、咽頭、直腸など、患部と接した部位に症状をきたします。
クラミジア の含まれる可能性のある体液
クラミジア は、次のような体液中に含まれる可能性があります。
・精液
・腟分泌液
・唾液
・血液
クラミジアが含まれた体液が粘膜に触れると、感染するリスクが高いです。 気が付かない間に精液や血液が自分の手などについており、そこから感染してしまう場合もあります。
クラミジアの感染経路
クラミジアは、さまざまな経路で感染します。
・性器→性器への感染
挿入や粘膜接触を伴う性行為は、代表的な感染経路です。実際に挿入しなかったとしても、性器同士が触れ合えば、感染の可能性があります。アナルセックスも、クラミジアの感染のリスクがある行為です。
・性器→のどへの感染
フェラチオやクンニリングスなど、性器を舐める行為(オーラルセックス)によって、喉へ感染することも多いです。咽頭クラミジアは、男性より女性に多く、また、性器へ感染がなくても、喉にだけ感染している方もおられます。
・のど→性器への感染
のどへ感染している人が、オーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)をおこなうことで、相手の性器にクラミジア を感染させることもあります。
・のど→のどへの感染
咽頭クラミジアがある方とキスをすることで、相手ののどへクラミジア が感染するケースもあります。特に、粘膜が接触するディープキスの場合には危険性が高いです。
・母子感染
体内や産道、母乳を介して母から子へ感染することを、母子感染と呼びます。妊婦健診でも、数%はクラミジア感染が明らかになり、出産までに治療することが重要です。胎児にお腹の中で感染する胎内感染、分娩で産道を通る時に感染する産道感染、授乳を通して感染する母乳感染があります。
・眼への感染(結膜炎)
クラミジア の含まれた精液や腟分泌液が目に入り、結膜炎を起こすケースも少なくありません。性行為後は、手に体液がついている可能性が高いため、目を触ってしまう前に、すぐ手を洗いましょう。また、精液を顔にかける行為はやめましょう。
性行為以外での感染は、ほぼない
クラミジアは、性行為以外の日常生活、たとえば温泉やプール、サウナ、公衆トイレの使用などでは、まず感染しません。ほかの細菌とは異なり、宿主の細胞内でのみ増殖する特性があるためです。クラミジアは80%が無症状!
クラミジアに感染しても、女性の80%は無症状というのが、怖い点です。
全く気が付かないまま、妊婦健診の際に初めて発覚するという方もよくいらっしゃいます。知らず知らずのうちに、腟から子宮卵管を通って、腹腔内に感染が進行し、腹痛が出現してから気がつく方も、珍しくありません。
女性の症状としては、次のようなものが挙げられます。
・子宮頸管炎
クラミジア感染によって子宮頸管に炎症が生じ、おりものの増加、排尿時痛、性交時痛、不正出血といった症状がみられるようになります。
・子宮内膜炎
クラミジア感染によって子宮内膜に炎症が生じて、腹痛がみられることがあります。月経時に悪化する方もいらっしゃいます。
・卵管炎
クラミジア感染によって卵管に炎症が生じる場合があります。月経時に発熱や腹痛などの症状がみられることがあります。卵管采の炎症から生じる癒着により、卵管閉塞を生じ、不妊症の原因になる可能性もあります。
・骨盤内炎症性疾患(PID)
クラミジア感染が子宮頸管よりも体の奥の方へ上行性に進行し、腹腔内に感染が広がった状態です。お腹の両側の痛み、圧痛(押すと痛む)、発熱、不正出血などを呈します。
・肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症 候群)
PIDに合併する疾患で、炎症が肝臓の周囲にまで広がった状態を指します。上腹部および右の肋骨付近が、かなり強く痛みます。痛みが、下腹部から右の肋骨付近へ移動したと感じる方もいます。
・不妊症
クラミジアに感染して時間が経過すると、腹腔内癒着や卵管の癒着が強くなり、不妊の原因となり得ます。不妊治療で感染が発覚するケースも少なくありません。
・子宮外妊娠
腹腔内癒着により、受精卵が子宮内までに到達できず子宮外妊娠となる場合もあります。妊娠が気付かず、突然の腹痛によって卵管破裂することもあります。
・風邪のような症状
咽頭クラミジアの場合、喉の痛みや腫れ、咳、発熱など、風邪のような症状が出ます。そのため、風邪と勘違いしている方も多いです。
クラミジアの感染率と潜伏期間
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クラミジアは、感染確率の高い感染症です。 コンドームなしの1回の性行為で、約50%が感染すると言われています。
また、挿入時にコンドームを着用したとしても、感染の確率が30〜50%ほどあり、完全に防ぐことはできません。手で性器に触れたり、性器同士が触れ合ったりすることがあれば、感染の可能性が出てくるためです。
潜伏期間は、1〜3週間と言われていますが、実際は男女ともに半数以上は無症状であり、感染に気がつくことができないケースもよくあります。また、潜伏期間の間や、自覚症状のない場合でも、性行為をおこなえば感染の可能性があります。
感染の機会に心当たりがないのにクラミジア陽性!?
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性感染症の検査結果をお伝えすると、次のような困惑の声が上がるケースもあります。
【例1】 妊娠して幸せいっぱいの中、健診でクラミジア感染が発覚…でも夫は、「浮気はしていない!」と言います。どういうこと?
【例2】 私はクラミジア陽性だったのですが、パートナーは陰性!浮気を疑われてつらいです。
【例3】 もう何年も、夫としか性行為をしていません!私自身には全く心当たりがない…問い詰めたら、夫の浮気が発覚しました。
例3のように、浮気や性風俗店の利用など、「パートナーが自分以外の相手との性行為によってクラミジアに感染し、自分にも感染した」というエピソードがあれば、自分が感染したことにも納得がしやすいでしょう。
ですが、実際には例1や例2のように「感染経路がわからない」「なぜ私だけ(パートナーだけ)が陽性に…?」というケースは少なくありません。
心当たりのない「クラミジア陽性」の原因として、考えられるものを解説します。
検査結果の誤り・タイミングによる影響
クラミジアの抗原検査(迅速検査)は、感染していても陰性になる(偽陰性)ことがあります。完全には検出できないことがあるのです。
早期の治療が大切ですので、「感染したかも」という機会があったらすぐに検査をしましょう。陰性であったとしても偽陰性のこともあるので、しばらく時間を置いてから再検査をしましょう。
また、検査の方法は何種類かあり、それぞれ精度も違います。とくに、咽頭や肛門のクラミジアは本人が希望しない限り、検査はおこないません。また、咽頭や肛門では、検査の結果「陽性」のはずの方が「陰性」という結果になっている可能性があります。
クラミジアのPCR検査は精度が高いですが、誤って「陽性」になる(偽陽性)ケースもあります。特に、治療後の判定では、治療後早期の検査で治癒しているにも関わらず、「偽陽性」となってしまう場合もあります。
最近は、自分で検体をとる「検査キット」も普及してきましたが、うまく検体を取れずに陰性となる可能性も高いです。 検査結果が疑わしい場合には、医療機関で相談することをおすすめします。
過去に感染した
クラミジアは、男女ともに無症状の方が多いという特徴から、実際にいつ・誰から感染したのかをはっきりさせるのは難しいです。
以前の感染が無症状のまま続いており、たまたま今になって感染が明らかになったのかもしれません。数年以上経ってから、腹腔内癒着による腹痛などの症状が出てくることもあるのです。
誰からうつされたのかを突き止めることは、とても難しいです。 クラミジアの検査方法が血液検査の「抗体検査」だった場合、過去の感染が反映され、現在は感染していないということもあります。
性器以外から感染した
性器から性器への感染ではない可能性もあります。
たとえば、オーラルセックスにより、パートナーの咽頭から自身の性器に感染した可能性が考えられるでしょう。 男性パートナーが咽頭クラミジアで、性行為にはコンドームを着用していたがクンニリングスをしたというような場合、女性だけが性器クラミジアを発症していてもおかしくはありません。男女逆でも同様のことがありえます。
性器の検査だけでなく、咽頭うがい液の検査もしてみるとよいかもしれません。 クラミジアは性行為による直接的な感染が主ですが、手や性具、唾液、血液を介して感染する可能性もあります。
温泉やタオルを介した感染の可能性もないとはいえませんが、非常に稀です。
片方が先に治療を受けていた
自分またはパートナーの片方だけが陽性で、なぜ?と困惑してしまうケースでは、「無自覚のまま、治療された」という可能性もあるでしょう。
たとえば、ほかの感染症の治療で使った薬でたまたまクラミジアが治癒し、結果として片方だけが陽性になってしまったというケースが考えられます。抜歯後の感染予防のために使った抗菌薬や、蜂窩織炎等の皮膚感染症治療で使った抗菌薬などで、一緒にクラミジアが治療されたのかもしれません。 そのため、検査をした時点では片方だけが陽性になったように見えることがあります。
多重感染の可能性
性感染症は、複数の種類に同時感染していることも多いです。
クラミジア以外の、淋菌やマイコプラズマなどの検査で陽性がでたためにほかの検査を受けておらず、「クラミジアは陽性と言われていない」という状態の可能性もあります。
また、淋菌感染症など、別の性感染症にかかっていると、クラミジアの症状がわかりにくくなり、診断に至らない可能性も、考えられます。
自分とパートナーの検査結果が異なるときは
パートナーと検査結果が異なってしまう理由はいくつも考えられます。整合性が取れない、心当たりがないという場合には、次のような対策も検討してみましょう。
・再検査をする
・別の部位(咽頭・肛門など)の検査を受ける
・過去のパートナーから感染した可能性を考慮する
・ほかの性感染症の検査も受ける
不安がある場合は、専門の医師に相談し、より詳しい検査を受けることをおすすめいたします。
クラミジア の検査と治療
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クラミジアの検査
クラミジアの検査は、さまざまな方法があり、精度もまちまちです。
【検体】
・尿(男性)
・腟分泌液(女性)
・咽頭うがい液
・肛門ぬぐい液
【検査方法】
・PCR法
・抗原検査(イムノクロマト法)
精度が高くおすすめできる検査方法は、PCR法です。
ただし、その日のうちには結果がわからないというデメリットもあります。その日のうちに結果がわからない場合でも、感染が疑わしければ先行して治療をおこなうことは可能です。
また、女性でPIDや肝周囲炎を疑う場合には、採血でクラミジア抗体を調べる場合もあります。
PCR法・抗原検査(イムノクロマト法)・抗体検査の違い
項目
|
PCR法 |
抗原検査 |
抗体検査 |
検 |
DNA |
抗原 |
血中の抗体 |
感 |
現在の感染 |
現在の感染 |
過去の感染歴 |
感 |
非常に高い |
やや低い |
高い |
検 |
数時間〜2日 |
10~30分 |
数日 |
検 |
専門機器 |
簡単・迅速 |
血液検査 |
費 |
高め |
安価 |
中程度 |
適 |
確実な診断 |
迅速診断 |
過去の感染歴 |
PCR法
最も確実で高精度な方法。現在の感染状態を診断するのに最適です。検査結果が出るまで時間がかかりますが、感染初期から確実に診断可能です。
抗原検査(イムノクロマト法)
迅速で簡易的な検査(抗原検査)。結果が短時間でわかり、簡便に実施できるが、感度が低く、偽陰性のリスクがあります。簡易検査として使用されますが、確定診断にはPCR法が必要です。
抗体検査
過去の感染歴を調べるための検査。現在感染しているかどうかは分かりません。感染から数週間以上経過してから反応が出るため、早期診断には向いていません。
適切な検査方法を選ぶためには、感染のタイミングや目的に応じて使い分けが重要です。例えば、現在の感染状態を知りたい場合はPCR法、過去に感染したことがあるかを確認したい場合は抗体検査を選ぶことが一般的です。
治療法
マクロライド系、キノロン系、テトラサイクリン系の内服抗菌薬で治療をおこないます。
種類により、内服の期間は1〜7日間とさまざまですが、処方された分はすべて飲み切るようにしてください。
治療から2〜3週間後に、再検査をします。抗菌薬に耐性を持っている場合もあるため、再検査が重要です。
必ずパートナーと一緒に治療を
「後ろめたいことがないのに、疑われたくない」などの理由で、性感染症にかかっていることをパートナーに知られたくないというお気持ちは、理解できます。
ですが、お互いに適切な治療をしなければ、うまくいきません。
自分だけが治療をしても、相手がクラミジアに罹患したままでは、性行為によってまたご自身が感染してしまいます。 お互いにしっかりと治療し、感染症の心配のない状態で性行為を楽しめるよう、感染がわかったら、まずはパートナーに伝えることが大切です。
性感染症は、「真剣なお付き合い」でも、「一度にひとりの性的パートナーしかいない」場合でも、感染の可能性はあります。パートナーにどのように伝えたらよいか、ご相談に乗ることもできますので、診察時にお申し出ください。
クラミジア感染症に関するQ&A
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Q. クラミジアは市販薬でも治療できますか?自然に治りますか?
クラミジアの治療には、抗菌薬が必要です。そのため、市販薬での治療はできません。自然に治ることもありませんので、医療機関で治療を受けましょう。Q. クラミジアは再発することもありますか?予防法はありますか?
クラミジアは、一度感染したからといって、免疫ができるものではありません。治療後も、感染している人と性的な関わりを持てば、再び感染します。 予防のためには、コンドームを着用することが大切です。
ですが、唾液や血液など、性器以外の部分にもクラミジアは含まれる可能性があるため、コンドームの着用だけでは予防しきれません。 性的なパートナーが複数いる方や、性産業に従事している方は、自覚症状がなくても、月に1回など定期的に検査をするのがよいでしょう。 パートナーが変わるタイミングで、あらかじめ検査しておくという選択肢もあります。
まとめ
感染者数が非常に多い「クラミジア感染症」は、自覚症状がない方の割合も高く、「心当たりのない感染」で悩まれる方は多いです。 自覚症状のないまま何年も経過していることがあるため、いつ・誰から感染したか特定するのは難しいです。
また、さまざまな理由で片方だけが陽性となってしまうことがありますが、パートナーと同時に治療をする必要があるため、感染が明らかになったら、事実を伝えましょう。早めの治療が不妊症や子宮外妊娠になるリスクをさげるのに大切です。
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。