骨盤腹膜炎など骨盤内炎症性疾患(PID)の症状、治療法、感染原因、性行為との関係も含め女医が丁寧に解説。
更新日:2024.05.10
女性のデリケートゾーンは、尿道や肛門が近いため感染症に注意が必要な部位です。
匂いやおりものの変化は想像がつきやすいと思いますが、下腹部痛や性交痛といった症状として現れてくる場合もあります。
「急に下腹部が痛い」
「月経でもないのに、下腹部の痛みが続いている」
そんなときは、感染症が起きている可能性を考えてみませんか?
今回は、女性のデリケートゾーンの感染症の中でも、「骨盤内炎症性、疾患(PID)」に着目し、症状や原因についてご紹介します。
骨盤内炎症性疾患とは?
骨盤内炎症性疾患(PID)というのは、骨盤の内側にあるあらゆる臓器に生じる感染症の総称です。
女性の場合、子宮から骨盤内臓器に感染が波及したものを指し、基本的には子宮・卵管・卵巣といった女性期の感染症が中心ですが、一部、S状結腸・直腸・ダグラス窩などの感染症も含まれます。特定の感染症を指すものではありません。
原因や治療について、詳しく解説していきます。
骨盤内炎症性疾患(PID)に含まれる疾患
骨盤内炎症性疾患(PID)は、感染症の総称とお伝えしました。
具体的には、次のような感染症が骨盤内炎症性疾患(PID)に該当します。
・子宮内膜炎
腟からの上行感染が生じて、子宮内膜で炎症が持続した状態です。着床不全や妊娠初期の流産の原因の1つとして考えられるようになってきました。子宮内膜症とは異なる炎症性疾患です。
・子宮留膿腫
子宮の中に膿が溜まった状態です。閉経後の高齢女性に多く、おりものの増加、不正出血がよくみられます。子宮体がんや結核が合併している場合があり、原因検索は重要です。
・卵管膿瘍
卵管に膿が溜まった状態です。卵管炎のある女性の約15%が発症すると言われています。若い女性に多く、お腹が張り、手で押したあとに離すと痛む「腹膜刺激症状」が生じることがあります。クラミジア感染症などで卵管閉塞が生じて、その後細菌感染が生じることにより卵管内に膿が溜まります。不妊症の原因となります。
・卵巣膿瘍
卵巣嚢腫に感染症が併発した病態です。超音波検査及び血液検査で診断されますが、卵巣がんに併発している場合もあり、抗菌薬での治療が有効でない場合、手術療法が必要な場合もあります。
・骨盤腹膜炎
骨盤腹膜炎は、子宮、卵管、卵巣などの炎症が骨盤腔全体へ広がってしまったものです。高熱や強い下腹部痛、おりものの増加、不正出血などが生じます。
「歩くと響くような腹痛」と表現される方もいます。
さまざまな感染症の総称なので、決まった診断基準を作ることが難しく、救急外来などを受診してもすぐに診断がつかない場合もあるようです。性交渉後に強い下腹痛が生じる場合、骨盤腹膜炎を疑います。
鑑別疾患として、虫垂炎が挙げられます。
疼痛が右側に集約するときには、外科婦人科両方の対応ができる病院での治療が望ましいです。
骨盤内炎症性疾患(PID)の原因菌
骨盤内炎症性疾患(PID)の原因菌は、非常に多彩です。
症状からのみ原因菌を突き止めるのは難しいため、おりものや膿などを少量とり、検査をおこなう必要があります。複数の細菌が同時に感染していることが多いです。
・大腸菌、ブドウ球菌、バクテロイデスなどの常在菌
・淋菌
・クラミジア
・マイコプラズマ
・トリコモナス
こうした菌が腟から入り込んで増殖し、上部(体の奥)へと感染が進行してしまった状態が骨盤内炎症性疾患(PID)です。特に重要なのは、背景に悪性所見が潜んでいないかという視線で診断や治療を行うことです。
骨盤内炎症性疾患(PID)の症状
無症状で進展してしまっている場合もありますが、多くの方では以下のような症状が現れます。
・発熱
・下腹部痛、押すと痛む
・おりものの増加
・不正出血
・性交痛
骨盤内炎症性疾患(PID)だけに特徴的な症状というのはないですが、ぜひ性交渉に関連する下腹痛が持続する場合は、婦人科を受診してください。
気が付かないまま放置していると、将来的に不妊症や子宮外妊娠のリスクが高くなります。また、月経や排卵とは無関係に骨盤内の痛み(骨盤痛)が残存してしまうこともあり、診断治療が難しい疾患です。
繰り返しになりますが、早めに原因を精査して診断し、しっかりと治療することが大切です。
骨盤内炎症性疾患(PID)のリスク要因
骨盤内炎症性疾患(PID)は、誰でも生じる可能性がある病態ですが、以下のような要因がある方はリスクが高いと言われています。
・35歳未満
・性的な活動がある
・複数の性的パートナーがいる
・過去に骨盤内炎症性疾患にかかったことがある
・細菌性腟症、子宮頸管炎などを起こしたことがある
性交経験のない方、妊娠中の方で骨盤内炎症性疾患(PID)を起こすのは非常に稀です。
骨盤内炎症性疾患(PID)は性感染症とは限らない
女性器を中心とした感染症ではありますが、必ずしも性感染症とは言い切れません。
淋菌やクラミジアなど、性行為により感染し、骨盤内炎症性疾患(PID)へと進展する場合が多いですが、大腸菌やブドウ球菌など、細菌性腟症が原因となる場合もあります。
ストレスや疲労などで免疫力が低下していることが、関与しているかもしれません。
骨盤内炎症性疾患(PID)の治療法
骨盤内炎症性疾患(PID)は、培養検査により原因菌を突き止め、原因菌に合った抗菌薬で治療をおこないます。
内服薬が有効な場合は外来での通院治療も可能ですが、一般的には重症化することが多く、入院管理が必要です。
膿瘍(膿が溜まった)の場合は、内服の抗菌薬だけでは十分に改善しないことがあり、点滴の抗菌薬による治療や膿瘍を排出する外科的な処置が必要です。
骨盤内炎症性疾患(PID)に関するQ&A
骨盤内炎症性疾患(PID)や下腹部痛に関連してよくあるご質問にお答えしていきます。
Q. 骨盤内炎症性疾患(PID)は、月経と関係ありますか?
月経の終わり頃から月経中、月経が終わって数日以内に起こることが比較的多いです。月経血の逆流により腹腔内感染となると考えられています。
汚いおりものや不正出血、疼くような下腹部の痛みなどを感じます。感染が体の奥へ広がるにつれ、痛みが強くなったり、発熱したりと症状も悪化していきます。便秘下痢の症状がある人もいます。
Q. 骨盤内炎症性疾患(PID)はどの部位が痛みますか?
骨盤内炎症性疾患(PID)は、さまざまな感染症の総称だとお伝えしました。そのため、痛む部位は決まっていません。
ただ、一般的には痛みは下腹部で左右の両方が痛むことが多いです。クラミジア感染症のように慢性的に進行する場合、下腹痛だけでなく上腹部痛を訴える方もいます。
Q. 予防方法はありますか?
性行為によって感染することが多いため、しっかりとコンドームを着用することが予防になります。複数のパートナーがいる方などは、定期的に性感染症の検査をすることも大切です。
ストレスなどを減らして免疫力を高めることも、意識しましょう。
女性の皆さんは、かかりつけの婦人科を持ち、おりものの異常や臭いの変化、下腹部痛、性交痛などがあった際に気軽に相談できるといいですね。
Q. 下腹部痛があったら、何科を受診すべきですか?
女性の下腹部痛の原因は、本当に多彩です。女性特有の疾患のこともあれば、便秘や腸炎、虫垂炎、尿路感染症ということもあります。下記の記事で、下腹部痛について解説していますので、参考にしてください。
高熱がある、立っていられないなど、急激に強い下腹部痛を感じられた場合には、早めに受診しましょう。
女性下腹部の痛み、生理・ピル・妊娠など婦人科系の下腹部痛や生理以外の下腹部痛を女医が詳細に解説。
まとめ
今回は、女性特有の病態である「骨盤内炎症性疾患(PID)」についてまとめました。
骨盤の内側にあるあらゆる臓器に生じる感染症の総称であり、原因菌もさまざまです。
おりものの増加、臭いの変化、下腹部痛、性交痛などが続いている場合、一度婦人科で検査をしましょう。
白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。