妊活とラクトバチルス|腟内フローラと妊娠を迎える体づくり
更新日:2026.06.29
妊活では「妊娠すること」だけでなく、妊娠を維持し、健康な赤ちゃんを出産することまで見据えた身体づくりが大切です。この記事では、腟内環境を支えるラクトバチルスと妊活の関係について、産婦人科医の視点から解説します。
妊活とラクトバチルス
「妊活」という言葉が一般的になって久しくなりました。
現在では体外受精や顕微授精などの生殖医療が大きく進歩し、多くのご夫婦がその恩恵を受けています。
一方で、私が産婦人科医になった約30年前を振り返ると、体外受精を選択される患者さんは今ほど多くありませんでした。
もちろん技術の進歩は素晴らしいものです。
しかし私は診療を続ける中で、もう一つ大切なことをずっと考えてきました。
それは、「妊娠すること」と「健康な赤ちゃんを出産すること」は、必ずしも同じではないということです。
私が気になっていた「感染」という存在
若い頃から診療をしていて、強く印象に残っている患者さんがいます。
- 感染性流産を繰り返してしまう方
- 原因不明と言われた早産
- 赤ちゃんがお腹の中で育たなくなってしまった症例
- 前回、非常に厳しい早産や死産を経験された患者さん
診療を重ねるほどに、「子宮内感染」が関係しているのではないかと感じる場面が少なくありませんでした。
実は今から約50年前には、月経血培養を行い、子宮内の感染を調べようと試みた産婦人科の先輩方がおられたと聞いています。
しかし当時は培養技術にも限界があり、明確な答えは得られませんでした。
私は埼玉医科大学総合医療センターで初期研修を行い、その頃から妊娠初期に腟分泌物培養を積極的に行い、細菌性腟症があれば治療を開始するという方針の医局に所属しておりました。
さらに子宮内感染が疑われる場合には、局所治療だけでなく、必要に応じて抗菌薬の全身投与も行う方針でした。
症例ごとの判断は必要ですが、その結果、健康な赤ちゃんの出産をサポートできた症例を数多く経験しました。
今になって見えてきたラクトバチルスの存在
当時はまだ「腟内フローラ」という言葉はほとんど知られていませんでした。
しかし現在では、ラクトバチルスが豊富な女性ほど、腟内環境が安定しやすいことが知られるようになっています。
さらに近年では、健康な子宮内膜にもラクトバチルス・クリスパタスを主体とする細菌叢が存在する可能性が研究されています。
研究はまだ発展途上ですが、妊娠は子宮だけで成立するものではなく、腟から子宮へ続く細菌環境全体が関わっているという考え方が広がっています。
私が30年間感じ続けてきた「感染を防ぐことが妊娠を守る」という感覚が、最新の研究によって少しずつ裏付けられてきたように感じています。
ラクトバチルスの基本を知りたい方へ
ラクトバチルスの働き、腟内フローラ、サプリや食事との関係については、ラクトバチルスとは?ラクトバチルス菌の働き・増やす方法で詳しく解説しています。
ラクトバチルスは妊娠を迎える身体づくりの第一歩
ラクトバチルスは乳酸を作り、腟内を酸性に保つ働きがあります。
その酸性環境が病原菌の増殖を抑え、細菌性腟症や炎症を起こしにくい状態を支えています。
もちろん、ラクトバチルスだけですべての感染を防げるわけではありません。
しかし健康な腟内フローラを保つことは、妊娠を迎える身体づくりの大切な土台の一つだと考えています。
抗菌薬だけでは妊娠は守れない
感染があれば治療は必要です。
しかし私は診療を続ける中で、薬だけでは妊娠は守れないことも学びました。
- 十分な睡眠
- バランスの取れた栄養
- 身体を冷やさないこと
- ゆっくりお風呂に入ること
- 安心できる家庭環境
- ストレスや不安を少しでも減らすこと
妊娠はホルモンだけではなく、自律神経、免疫、そして心の状態とも密接に関わっています。
診察室で患者さんのお話をゆっくり聞くだけで、その後の妊娠経過が良くなったように感じることも少なくありませんでした。
医療には、数値だけでは測れない力があります。
妊活のゴールは妊娠ではない
「妊活」というと、多くの方が妊娠することを目標に考えているように感じています。
しかし私は少し違う考えを持っています。
妊活の本当のゴールは、元気な赤ちゃんを出産し、抱っこし、お母さんも元気に育児を始められることではないでしょうか。
そのためには受精だけでなく、
- 感染がなく着床すること
- 絨毛膜下血腫などの出血なく妊娠が成立すること
- 腹緊や腹痛を感じることなく妊娠が経過すること
- たっぷりの羊水の中で赤ちゃんが健やかに育つこと
- 無事に泣き声を上げて赤ちゃんが生まれてくること
そこまで考える必要があります。
その長い道のりを支える見えない存在の一つが、ラクトバチルスなのだと思います。
症状がある場合は自己判断しないでください
おりものの異常、におい、かゆみ、下腹部痛、出血、流産や早産の既往がある場合は、腟内環境だけで判断せず、産婦人科で相談することが大切です。
自然の力をもう一度見直したい
医療は日々進歩しています。
体外受精も、生殖医療も、これからさらに発展していくでしょう。
私はその進歩を心から応援しています。
しかし同時に、人間が本来持っている自然の力も忘れてはいけないと思っています。
女性の身体には、自らを守り、命を育み、新しい命を迎えるための素晴らしい仕組みが備わっています。
その仕組みを静かに支えている存在の一つがラクトバチルスです。
妊活とは、赤ちゃんを授かるための治療だけではありません。
未来の命を迎えるために、自分自身の身体を大切に育てる時間でもあります。
毎日の生活の中でラクトバチルスを大切に育てること。
それは、未来の赤ちゃんへの最初のプレゼントなのかもしれません。
このブログは、私が30年以上の産婦人科診療を通してたどり着いた一つの思いです。
「妊娠を助ける医療」だけではなく、「妊娠できる身体を守る医療」。
これからも、その両方を大切にしながら、一人でも多くの女性が安心して新しい命を迎えられるよう、お手伝いを続けていきたいと思います。
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
産前産後から更年期まで、女性のライフステージに寄り添う診療と情報発信に取り組んでいます。性交痛、外陰部・腟まわりの痛み、デリケートゾーンの違和感など、相談しづらいお悩みにも丁寧に対応しています。



