「産科ショックは、出血性ショック」─人工赤血球に希望を感じた日
更新日:2026.07.27
先日、とても嬉しいニュースを目にしました。
奈良県立医科大学が開発を進めている「人工赤血球(ヘモグロビンベシクル)」の第一相臨床試験が進み、安全性評価の初期段階が順調に進んでいるという記事です。
人工赤血球は、血液型を問わず投与でき、常温で長期間保存できるという画期的な特徴を持っています。
実用化に向けて、一歩ずつ前進していることが報告されました。 (奈良県立医科大学)
私は以前、埼玉医科大学総合医療センター 総合周産期母子医療センターで病棟医長を務めていました。
昼夜を問わず、産科救急の最前線で多くの患者さんと向き合ってきました。
その中で、今でも忘れられないのが「産後大量出血」です。
産科では、突然、想像を超える出血が起こることがあります。
分娩が順調に終わったと思った数分後から、母体の状態が急激に悪化していくこともあれば、想像してなかった常位胎盤早期剥離や癒着胎盤、多胎ぶんべんごの収縮不全。産科の医師だけでなく、助産師、手術室の看護師、産科麻酔科医、輸血部…。病院全体が一つになって命を救うために、必死に動き出します。
そして、その現場で私が何度も感じてきたことがあります。
出血性ショックは、産科だから特別なのではありません。
出血性ショックは、出血性ショックです。
失われた循環血液量をいかに早く補い、酸素を全身へ届けるか。脳を守れるか。
それは外傷でも、消化管出血でも、そして産科でも共通する「命を守る時間との闘い」です。
もちろん、産科大量出血では凝固障害への対応も極めて重要です。
FFP(新鮮凍結血漿)は比較的長期間保存でき、多くの施設で備蓄されています。一方で、赤血球製剤は保存期間が限られ、血液型適合も必要です。
だからこそ、血液型を問わず、すぐに投与できる人工赤血球が実用化されれば、救える命は確実に増えるのではないかと期待しています。
もちろん、人工赤血球だけですべてが解決するわけではありません。
しかし、救命の最初の数十分を支えることができれば、その後の輸血や止血治療につなげる時間を稼ぐことができます。
その「時間」が、命を救うことがあります。
長年、産科医として診療してきた私にとって、この研究は単なる新しい技術ではありません。
現場で懸命に患者さんを救おうとする医療者にとって、そして未来のお母さんたちにとって、大きな希望です。
第一相試験が順調に進んだという報告を読み、実用化への期待はさらに大きくなりました。 (奈良県立医科大学)
日本発のこの技術が、一日でも早く臨床の現場で活躍し、多くの命を救う日が来ることを心から願っています。
産科医として、そして一人の医師として、その日を楽しみにしています。
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
産前産後から更年期まで、女性のライフステージに寄り添う診療と情報発信に取り組んでいます。性交痛、外陰部・腟まわりの痛み、デリケートゾーンの違和感など、相談しづらいお悩みにも丁寧に対応しています。



