月経発来前の娘さんを持つお母様にお伝えしたいこと
更新日:2025.02.22
月経前の娘さんをもつお母様方にお伝えしたいこと
女の子が生まれると、どのように月経がはじまるか?どのように娘さんに月経を説明していいかを悩まれる母親からたくさんの質問をいただきます。
今、私自身母親になって思うことは、より良い世界を作るためにどのような女性が必要なのか、どのような女性になってほしいのか。どのような女性が幸せか。そして、最高に素敵な女性になってもらうためには、どのようにして女性の成長発達を娘さんたちに教えるべきなのか。
この視点から、女性の成長に関して書いてみようと思いました。
原始的な生き物の代表であるアメーバは、雌雄同体。人間は雌雄分かれている。雌雄が分かれている理由は、異なる遺伝子で交配することにより子孫に多様な遺伝的特性を持つことができ、かつ、優秀な遺伝子発現となるように補い合える。そんな風に大学で習ったと記憶しております。雌雄分離は優秀な遺伝子を残すために、進化してきたシステム。それゆえに、男女の性の特徴を十分に生かせる教育をしていきたいものです。
性教育は生まれてすぐから?
私の一番初めの妊娠出産を意識した体験は、スウェーデンから始まります。
私は大学6年生の時に、大学の交換留学で知り合ったスウェーデンの友人のお家に滞在させていただきました。ご存じのとおり、スウェーデンは、女性の自立が有名で性教育にも熱心な国。そのスウェーデンの大好きな友人が妊娠しました。私が彼女の家に滞在させていただくことになったのは、妊娠16週の時でした。友人はまだ結婚はしておりませんでしたが、そのパートナーと一緒に妊婦健診に通っておりました。そして、その妊婦健診に友人と友人のパートナーと一緒に妊婦健診についていかせていただきました。ちょうど学級が開催される時期で、父親学級、母親学級にわかれて受講しておりました。父親学級を未婚のパパが参加するのを見て、30年前の私はとても驚きました。未婚の二人が妊婦健診に一緒に通い、親になる準備のために学級に熱心に通う。そして、父親、母親の気持ちを育てるためのプログラムは大変内容の充実したものでした。医学生の私も一緒に母親学級に参加させていただきました。妊娠中に下肢静脈瘤予防のために弾性ストッキングが無料で配られ、毎日着用するように指導をされているのを知り、妊娠中の生活指導がきちんとしていて、妊娠女性を大切にする文化があるのだなあとしみじみ感じました。
それから30年の月日が流れて、日本もずいぶん性差に対する考え方が変わってきたように思います。
超音波検査の発達により、妊娠6週から胎児の心拍が聞けるようになりました。このことで両親の親としての自覚が早く生まれるようになったと思います。さらに妊娠16週くらいには、性別がわかるようになりました。そして、胎児の推定体重や羊水量、体位などもわかるようになり、周産期死亡率はぐっと低下して、世界で最も安全な出産ができる国になりました。
さて、本題の女の子の育て方ですが…
まず、子どもを育てるうえで大切なことは、子どもが一人前として生きる機能を獲得すること。生まれた瞬間から心臓を動かして血液を循環させ、肺から水を吐き出して、肺に酸素を体内に送り込み、おギャーっと泣く。身体を自由に動かして、目をぱちぱち瞬きして、きょろきょろ周囲を見渡す。ホルモンを調整して体温を確保する。それから、おっぱいを飲んで、胃腸から水分や栄養を取る。そして、排泄する。ここまでは出産直後から速やかに獲得する能力。
1歳くらいになると、喃語からお話しできるようになり、母乳から離乳食に変わり、2足歩行できるようになります。そして、3歳くらいになると、おむつが取れてトイレにひとりで行けるようになります。ただし、やっと排泄に関しての自立ができるようになったばかりで、外陰部の清潔を保つには難しい場合があり、時々、トイレの拭き残しや清潔が保てないために膀胱炎や膣炎になることがあります。ご心配なく、その時は婦人科をご受診ください。そのころから、性差がわかるようになってきます。この時期から、性差を日常に教えることは、自然なことと思います。小さいお子様の方が、素直に理解するため、教えやすいと思います。
8歳くらいになると、月経がはじまる女の子もいるようです。月経の始まる前に、少しずつ、女性ホルモンが増えて下腹部を痛がったり、おなかが張ったりするようです。胸が膨らんでくることもあり、乳がんが心配になって受診される方もいらっしゃいますが、ほとんどの方は異常ありません。やはり、膀胱炎や膣炎になることも多い時期ですが、婦人科を受診してください。どうやって月経を説明しようか悩むことも多いと思います。女の子は赤ちゃんが産めるように、成長する過程を自然にお伝えすればいいと思います。赤ちゃんがおなかの中で育つ袋が子宮。その袋の通り道が膣。赤ちゃんのもとが育つ卵巣。これらが少しずつおなかの中で成長しているよ。おっぱいがあられるように準備するために、胸も膨らむよ。という感じですかね。
うちの子供は息子と娘。なんとなくこのころには、性差は理解していたと思います。いろいろ教えようと思っていたのですが、私の家は、産婦人科医の家。たくさんの医学書があり、産婦人科の教科書を兄妹で必死に読んでいる毎日だったので、実際は、あまり質問は多くありませんでした。教えようと思った時には、「もう、知ってるよ!」とつまらなそうに言われました。ママから赤ちゃんが生まれて、パパからは生まれないということは知らず知らずのうちに理解しているようでした。
9~16歳くらいから月経が始まります。月経が起こり始めたころは、月経が起こるかわからないからと、毎日ナプキンパットを使用しているお子様のパットかぶれの診察をしたことがあります。初回の月経血が大量になることは多くないので、ご心配な方は吸水ショーツのような下着を選択されることもお勧めします。
そして、いよいよ大人の女性の身体になってきます。排卵ができるようになり、女性ホルモンが定期的に出るようになります。徐々に月経は28日サイクルに整っていくことが多いです。毎月、子宮に血液が集まり、子宮は受精卵を待ち、今回受精卵が来ないと判断すると、子宮を収縮させて月経になる。プチ出産のような体験をしながら卵巣も子宮も膣も成長します。この定期的な月経が来るようなしっかりとした女性ホルモンが分泌されると、急に身体が女性ホルモンに定期的に曝されることにより、気持ちに浮き沈みがでたり、頭痛や腹痛などの不調を訴えることが多くなってきます。これは、身体の成長とともに、徐々に慣れて整ってきます。この時期のお母様の悩みはつきません。反抗期とも重なるのですが、身体的にも精神的にも自立の時期です。そして家族を作れるだけの身体能力と精神力が養われます。ひと昔前なら、そろそろお嫁に出す頃です。そんな中、時代も変わり、環境も変わり、さまざまな性的内容がスマホで見られる時代に突入。どんどん、大人の気持ちに関わらず情報は氾濫しております。精神的にどのくらい成長しているかは判断できないのですが、もうこの時期は、大人としてお話しするしかないと思います。
どんな大人がいい大人か。一緒に悩むしかありません。
月経は何か、いい大人はどんな女性か、いい社会人はどんな人か、いい社会はどのようにして作られるのか、どんな家族を作りたいか、民族とは、国境とは、世界とは。
世界平和に向かう第一歩は、一番近くの存在である一番小さな娘さんに教える月経についてのお話なのかもしれません。
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白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。