人工妊娠中絶はどうして悪いのか
更新日:2025.01.28
妊娠中絶はどうして身体に悪いのか?
妊娠中絶がどうして悪いのか?と時々外来で訊かれます。
どうして悪いのか、考えてみました。
自然にまかせれば一人の人間として世に出る赤ちゃんの権利は、守ってあげたいものです。この考えから、妊娠中絶はよくないと思っている人が多いと思います。
ただし、出産を望まない母親も存在することは事実です。
日本には母体保護法があります。
母体の健康上妊娠継続ができない場合(母児共に妊娠中に死亡する可能性がある場合は、妊娠継続をお勧めできません)
経済的・社会的な理由により妊娠継続が困難の場合(昔は子供が10人いるなどの多産の家庭で、経済的・社会的に生活ができない場合は、妊娠中絶が許されます)
性的暴力や犯罪による妊娠
上記のような場合には、医師の判断により、妊娠22週未満の場合、人工妊娠中絶が認められます。ただし、麻酔下で意識のない中で処置が終了できるのは妊娠12週未満です。それ以降の人工妊娠中絶は、産院に入院して小さな赤ちゃんを人工的に分娩するという方法で中絶を行います。
胎児に人権があるのか?胎児に意識があるのか?中絶は子殺しなのか?これらの議論は限りなくありますし、どのような状況であっても妊娠した女性は、妊娠を中断することに罪悪感を持つものです。妊娠をやめることは、母親の精神衛生上よくないと思いますので、出産を望まない性交渉は、避妊方法を熟知して対策を練るべきです。性交渉すれば妊娠する。健康であれば、当然のことなのですが、意識していない方もいるようです。処置の後、喪失感により、又は罪悪感により、うつ状態になってしまうこともありますので、人工中絶は十分に考慮したうえで判断したほうがいいと思います。その背景には、妊娠できる環境が整えられるか(パートナー、両親、家族、仕事、学業、経済、住居問題、その他)を多方面にわたり検討すべきと思います。
まずは処置に関して。子宮内の胎児を人工的に取り出すことは、子宮頸管を広げ、子宮内に着床している胎児と胎盤を取り出す処置です。子宮頸管を広げるときに頸管を傷つける、子宮内の胎児および胎児付属物を取り出すときに子宮内膜を傷つける、または、欠損させる。このことにより、大量出血する場合がある。また、妊娠するときは性病が感染していることもあるので、子宮内感染症を引き起こす可能性もあります。子宮収縮が悪い場合、処置後に出血が継続したり、再処置が必要になる場合もあります。
次の妊娠にも影響があります。非常にまれですが、子宮内膜が欠損した部位に妊娠すると癒着胎盤となり、妊娠時に胎盤が剥離せず大量出血になることがあります。子宮内癒着により不妊症につながる場合があります。また、頸管部のダメージひどく頸管無力症となる可能性もわずかではありますが、あります。また、性病などの膣内の感染症がある場合、処置をする際に子宮内に感染が広がると、その後の受精卵の着床不全を引き起こすことがあります。処置後の発熱や帯下の増加がある場合は、速やかに受診してください。
あまり知られていないことかもしれませんが、少しだけお伝えします。
白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。