骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱脱・直腸脱)とは?性行為との関係、症状チェック法、原因、検査・治療法を丁寧に解説。
更新日:2024.10.11
「骨盤臓器脱」という状態をご存じでしょうか?
女性にのみ生じる病態で、年齢とともにそのリスクは高くなります。骨盤臓器脱に伴う違和感や排尿・排便に関するトラブルで、知らず知らずのうちに悩んでしまっているかもしれません。
今回は、あまり聞き慣れない「骨盤臓器脱」について詳しくご紹介します。放っておくと、症状が進んでしまいます。当てはまりそうだと思われた方は、早めの対処をしましょう。
骨盤臓器脱とは?
骨盤の内側には、子宮・直腸・膀胱がおさめられており、これらの臓器は骨盤底筋群や靭帯に支えられています。しかし、分娩でダメージを負ったり、加齢により衰えてきたりすることが原因で、筋肉や靭帯がゆるみ、徐々に骨盤内の臓器がうまく支えられなくなっていきます。
こうして、臓器が腟へと下垂してきて、腟の外へ出てきてしまった状態が「骨盤臓器脱」です。
臓器が腟から出てくるという状態は、少しイメージがしにくく、怖いと感じられる方もいるかもしれません。ですが、加齢に伴ってどなたにでも生じうるもので、ある意味自然なことともいえます。
骨盤臓器脱の病型・病期
骨盤臓器脱は、腟から脱出してくる臓器により病型が分けられます。
程度の差はあるのですが、どれか1つだけが単独で生じることは珍しく、同時に生じることが多いです。
・膀胱脱
腟壁と膀胱との間の組織が弱って伸びることにより、膀胱が腟壁から飛び出ている状態です。
・子宮脱
子宮が本来の位置よりも下がってきて、子宮の一部(または全体)が腟から出てきている状態です。
・直腸脱
直腸内に強い圧力がかかり、腟の方へ膨らんできた状態です。排便で強くいきむことや慢性的な便秘が、直腸瘤脱の原因になり、また、直腸脱も便秘の原因となります。
骨盤臓器脱のステージ
また、骨盤臓器脱の段階は、5段階のステージに分類されます。
ステージ II 以上になると、自覚症状を感じるようになってきます。
ステージ 0 |
臓器が下がっていない正常な状態 |
ステージ I |
下がっている臓器が腟の入り口より1cm以上内側にある状態 |
ステージ II |
下がっている臓器が腟の入り口より1cm内側〜1cm外側の間になる状態 |
ステージ III |
下がっている臓器が腟の入り口より1cm以上外に出ているが、腟の全長より2cm以上短い状態 |
ステージ IV |
臓器が完全に出てきている状態 |
ステージがあまり進行していない段階であれば、セルフケアやクリニックでの治療によりある程度の改善を見込める可能性も高いです。
骨盤臓器脱のリスクを高める要因は?
骨盤臓器脱は、次のような要因によって引き起こされることがわかっています。
・多産
・巨大児の経腟分娩
・高齢出産
・肥満
・喫煙習慣
・重労働やスポーツで慢性的に腹圧をかける行動をしている
・慢性的な咳や便秘
出産の回数が多い方は、それだけ骨盤臓器脱のリスクも高まります。出産後、少しずつダメージは回復していきますが、産後の女性の40%程度もの方が、骨盤臓器脱の状態です。
加齢も大きな要因で、中高年女性では半数もの方が骨盤臓器脱の状態なのではないかと考えられています。恥ずかしさや、何科を受診すべきかわからない、病気とは思っていないといった理由から、お一人で違和感に悩まれている方が多いです。
骨盤臓器脱の症状と検査法
次にご紹介するような症状があった場合には、検査を受けてみることをおすすめいたします。
骨盤臓器脱の症状をチェック!
骨盤臓器脱は、初期の段階でも多少の症状を感じられることが多いです。命に関わるような病態ではありませんが、違和感や不快感の原因となり、また、生活の質も下げてしまいますので、気が付かれた段階でぜひご相談ください。
・力を入れると陰部から何か出てくる
・股に何かが挟まっているような感覚
・座ったときの違和感
・入浴時に陰部から丸い玉のようなものが出てくる
・陰部が下着と擦れるようになる、下着に血がつく
・頻尿、尿もれ、残尿感
・便秘、便がすっきりと出ない
・下腹部が重たい
・腰痛
・性交時痛
・性行為で感じにくくなる
骨盤臓器脱の検査
どういった症状で何科を受診したかにもよりますが、今回は婦人科を受診された場合でお答えいたします。
・問診
気になっている症状について詳しくお話ください。
また、妊娠・経腟分娩の回数、月経の有無(閉経しているかどうか)、腹部の手術歴、ほかのご病気や内服薬などについても確認します。
・内診
実際に、骨盤臓器脱の状態になっているかどうかを評価します。
内診台で診察をおこなえば、骨盤臓器脱かどうかはすぐにわかります。腟にクスコという器具を挿入し、腟内を前後左右に少し圧迫させたり、力を入れていただいたりしながら、骨盤臓器脱の程度を確認しますので、圧迫感や違和感があるかもしれません。
・その他検査
排尿に関するトラブルがある場合には、超音波検査や尿検査・残尿測定などをすることもあります。場合により、MRI検査、排尿日誌の記載なども検討します。
骨盤臓器脱のような症状が見られる場合、婦人科または泌尿器科を受診されるのがよいでしょう。
便秘などの症状で内科・消化器内科等を受診される方もいますが、内診は婦人科でなくてはできません。
骨盤臓器脱の治療法
骨盤臓器脱の治療法として、代表的なものをいくつかご紹介します。
1.骨盤底筋トレーニングや体操
ごく軽度の骨盤臓器脱であれば、ご自宅での骨盤底筋トレーニングや体操から始めてみてもよいでしょう。当院でも、骨盤底筋のトレーニング方法や体操を指導しております。
ただし、継続的におこなわなければならないこと、即効性はないこと、正しいフォームでおこなわなければ上手く効果が出ないことに注意が必要です。ほかの治療法を選ぶ方も、トレーニングを併用してください。
2.エムセラやエリトーン
骨盤底筋のトレーニングは、なかなか正しくおこなうことが難しいものです。そこで、エムセラやエリトーンといった機器の力を借りることもおすすめしています。
2-1 エムセラ
座っているだけで骨盤底筋群に的確にアプローチしてくれる、椅子型の高密度焦点電磁機器です。
1回30分ほど座っているだけで、107,040回もの筋収縮が誘発され、筋肉を効果的に鍛えることができます。
セルフトレーニングだけでは難しい方、尿漏れ症状のお悩みが強い方などには、エムセラがおすすめです。
2-2 エリトーン
FDA(アメリカ食品医薬品局)の承認も受けており、安全性が確認されたケア用品です。
2024年9月より、当院でも導入いたしました。
エリトーンは、骨盤底筋を優しく刺激し、徐々に強化することで、軽度〜中等度の尿漏れ・尿失禁の症状を改善します。使用方法はごく簡単で、日常生活に支障をきたすことなく取り入れられるため、忙しい生活を送る女性にもぴったりです。
デリケートゾーンにエリトーン専用パットを貼り付け、その上から下着をつけます。本体とケーブルで繋ぐと、電気により骨盤底筋が刺激されるという仕組みです。1回20分と、非常に手軽に始めることができます。
モナリザタッチと組み合わせた治療もおすすめです。
骨盤臓器脱や排尿トラブルに「尿漏れ集中セット」
骨盤底筋由来の疾患を改善するための、当院オリジナルの「尿漏れ集中セット」をご用意しております。
頻尿、尿漏れ、尿が出にくいなど、排尿のトラブルは、骨盤底筋のゆるみが原因となっていることも多いです。当院では、骨盤底筋へのしっかりとしたアプローチのために、私が考案いたしました。
エムセラ6回+モナリザタッチ2回+尿漏れ集中レーザー2回で、385,000円(税込)です。
ホームケアとして、エリトーンも合わせてお使いすることもおすすめいたします。
3.ペッサリー(リング)
リングのような形状をした器具で、腟の中に挿入して子宮を支えるためのものです。子宮脱、膀胱脱の方に用います。あまりご高齢の方や、定期的な通院が難しい方にはおすすめしておりません。
自分で着脱ができますので、外出時や長時間の立ち仕事のときなどには装着し、性行為の前には外すなど、ご自身のライフスタイルに合わせて使用できます。きちんとケアできなかった場合や、サイズがあっていない場合などには、炎症・感染を起こしたり、おりものの変化が出たりする可能性があります。
4.手術
骨盤臓器脱の症状が重くつらい方は、手術も選択肢です。
いくつかの術式がありますので、一人ひとりの状況に合わせて最適な方法を検討します。術式によっては、腟が狭くなってがん検診が難しくなる、性交痛が出るなどの場合もあります。やや再発率は高く、排尿機能の回復も人により異なります。
骨盤臓器脱の症状にまつわるQ&A
骨盤臓器脱で症状を感じるようになってきた方からよく寄せられるご質問にお答えします。
性行為をしても問題ない?リスクは何かある?
骨盤臓器脱だからといって、全員が性行為を控えるべきとはなりません。女性の方に性行為に伴ってつらい症状がないのであれば、これまで通り性行為をおこなっていただいて大丈夫です。
ただし、骨盤臓器脱の状態によっては、挿入自体が難しい、痛みや出血を生じる、デリケートゾーンの粘膜が傷つきやすい(ピストン運動により傷つくこともあります)、おりものの量や匂いが気になるといった状況になる方もおられます。お体に無理をかけないように、注意してください。
臓器を体内へ戻した状態で男性器を受け入れるようにするとよいでしょう。潤滑ゼリーなどをしっかりつけて挿入し、粘膜が傷つかないように、優しく性行為をおこなうことも重要です。
20代30代でも骨盤臓器脱になることはある?
若い方でも、妊娠や出産、運動不足、肥満、喫煙などさまざまな要因により骨盤臓器脱になることはあります。
産後の場合、時間経過とともに改善していくことも多いです。若い方でも、早く症状を改善させたい方や症状の重い方は、骨盤底筋トレーニングやエムセラなどで回復のサポートをすることもおすすめします。
骨盤底筋によくない生活習慣がある方は、改善もしていきましょう。
骨盤臓器脱を放置するとどうなる?
放置していても命に関わるわけではありませんが、重症化すると不快感が強くなり、困った症状も出るようになります。
たとえば、脱出した臓器が下着と常に擦れ合うことにより、出血や痛みが出ます。臓器を体内に押し込まなくては、尿や便が出ないというケースもあります。進行する前であれば、手術をせずにすむことも多いです。「違和感があるな」という段階で、気軽にご相談いただければと思います。
まとめ
今回は、女性特有の病態である「骨盤臓器脱」についてご紹介しました。あまり聞き馴染みのない病態かもしれませんが、お悩みになる方はとても多いです。
デリケートゾーンに何かが挟まっているような違和感、排尿のトラブル、便秘などは、すべて骨盤底筋のおとろえが原因の可能性があります。
当院では、尿漏れ集中セットなどさまざまな選択肢を用意し、女性の皆さまの生活の質を高めるためのケアに力を入れております。今回の記事で、当てはまるような症状があるとお感じになった方は、ぜひご相談ください。
白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。