なぜ私は「3部位照射」へ進化させたのか| イタリアで学び、4,200例以上の臨床経験から見えてきたこと
公開日:2026.07.22
モナリザタッチについてお話しすると、「レーザーを当てれば腟は若返るのですか?」という質問を受けることがあります。私はいつも、「レーザーは非常に優れた治療ですが、それだけで全てが解決するわけではありません」とお答えしています。
この考えに至ったのは、決して最初からではありません。
2019年にモナリザタッチを導入した当初は、私自身も世界中で行われている標準的なプロトコールに従い、腟内を中心とした照射を行っていました。
実際、多くの患者さんでは、
・乾燥感が改善した
・灼熱感が軽くなった
・性交痛が改善した
・尿漏れや頻尿が軽快した
など、非常に良好な結果が得られました。
しかし、診療を続けるうちに、一つの疑問が生まれました。
「十分に照射しているのに、なぜ改善しない患者さんがいるのだろう。」
この疑問こそが、現在の診療スタイルへ進化した原点です。
改善しない患者さんには共通点がありました
症状が改善しにくい患者さんを丁寧に診察すると、ある特徴が見えてきました。それは、
「痛みの場所が腟の奥ではない」
ということです。
性交痛を詳しく伺うと、
「入口が痛い」
「最初だけ激痛がある」
「押されるとヒリヒリする」
「入口を触られるだけで怖い」
という患者さんが非常に多いことに気付きました。
診察でも、腟壁よりも前庭部に圧痛が集中している方が少なくありません。
つまり、患者さんが「腟が痛い」と表現していても、実際には腟そのものではなく、腟前庭部が痛みの中心になっている症例が多く存在していたのです。
前庭部は婦人科の中でも特殊な組織です
前庭部は、外陰部と腟の境界に位置する非常に特殊な部位です。発生学的にも外胚葉と内胚葉の移行部にあたり、皮膚とも粘膜とも異なる特徴を持っています。
この部位には、
・豊富な知覚神経終末
・毛細血管
・免疫細胞
・エストロゲン受容体
・アンドロゲン受容体
などが集まっており、わずかな炎症や乾燥でも強い痛みを感じやすい組織です。
近年では、前庭痛症(Provoked Vestibulodynia)の研究が進み、神経線維密度の増加、慢性炎症、免疫反応、ホルモン環境など、多くの要素が複雑に関与することが分かってきました。
つまり、前庭部は「入口」という単純な構造ではなく、女性の痛みを理解するうえで極めて重要なインターフェースなのです。
腟だけでは説明できない症状
私の外来には20代、30代の性交痛患者さんも多く来院されます。この年代では、更年期のような著明な萎縮が原因とは考えにくい方も少なくありません。
それにもかかわらず、
・挿入できない
・指一本でも痛い
・結婚後も性交が成立しない
・婦人科診察そのものが苦痛
という深刻な症状を抱えています。
以前は処女膜切開術のみが必要と考えられていた時代もありました。
しかし実際には、処女膜が柔らかくても痛い患者さんがいます。
逆に切開術を受けても改善しない患者さんも少なくありません。
私は、この経験から「痛みの本質は、処女膜だけでは説明できない」と考えるようになりました。
イタリアで得た確信
私はイタリアでStefano Salvatore教授から直接学ぶ機会をいただきました。Salvatore教授は、モナリザタッチの臨床研究を世界的に牽引してきた第一人者です。
現地で最も印象的だったのは、「レーザーは単に表面を焼灼する治療ではない」という考え方でした。
目的は熱損傷ではありません。
微細な組織傷害を極めて精密に作り、その後に起こる創傷治癒反応を利用して組織再構築を促すことにあります。
病理学的研究では、
・上皮の成熟
・乳頭構造の回復
・血流改善
・線維芽細胞の活性化
・コラーゲン再構築
・細胞外基質の変化
などが確認されています。
つまり、レーザーそのものが組織を若返らせるのではなく、生体が本来持つ修復能力を引き出しているのです。
この考え方は、私の診療に大きな影響を与えました。
4,200例以上の臨床経験から生まれた「3部位照射」
帰国後、私は「どこを照射すれば患者さんはもっと良くなるのか」を一例一例検討しました。その結果、現在の診療では必要に応じて次の3部位を評価しています。
第一に腟内。
これはモナリザタッチの基本であり、更年期のGSM、乾燥感、尿路症状、粘膜萎縮などに重要です。
第二に前庭部。
性交痛、接触痛、灼熱感、ヒリヒリ感などでは、この部位へのアプローチが極めて重要になります。
第三に外陰部です。
外陰部は皮膚の乾燥、摩擦刺激、炎症、掻痒感などに深く関与します。
実際には、この3部位のどこに症状の主体があるかは患者さんごとに異なります。
「全員に同じ照射をする」のではなく、「症状を生み出している部位を見極め、必要な部位へ治療する」という考え方へ、私の診療は進化していきました。
レーザーだけでは終わらない理由
もう一つ重要なことがあります。レーザー後の組織は再生が始まる非常に大切な時期を迎えます。
その時期に、
・乾燥が続く
・摩擦刺激が加わる
・腟内環境が乱れる
・炎症が持続する
と、十分な回復が得られない可能性があります。
そのため私は、レーザー後のホームケアを治療の一部として考えています。
保湿、摩擦の軽減、腟内フローラへの配慮、必要に応じたセルフケア指導などを組み合わせることで、組織が本来持つ修復能力をより良い方向へ導くことが期待できます。
私が目指しているのは「女性器全体を診る医療」
婦人科では、腟、前庭部、外陰部を別々に考えてしまうことがあります。しかし実際には、それぞれは解剖学的にも機能的にも連続した一つの器官です。
どこか一つだけを治療するのではなく、
・組織
・血流
・神経
・ホルモン
・免疫
・マイクロバイオーム
・患者さんの痛みへの恐怖や心理的背景
まで含めて評価することが、本当の意味での女性医療ではないでしょうか。
私はモナリザタッチを単なる「レーザー治療」としてではなく、女性器全体の機能を回復させる包括的な医療の入り口として位置づけています。
4,200例を超える患者さんを診療してきた現在も、学びは続いています。
一人ひとりの患者さんから教えていただいた経験と、世界で積み重ねられてきた医学的エビデンスを融合させながら、これからもより良い診療を追求していきたいと思っています。
私は、「レーザーを当てること」がゴールではなく、「患者さんが痛みなく、快適に、自分らしく生活できること」を治療の最終目標と考えています。
そのために必要であれば、レーザー、ホームケア、リハビリテーション、生活指導を組み合わせ、その方にとって最適な治療を提案する――それが、私が4,200例以上の診療を通してたどり着いた現在の診療哲学です。
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