ヒアルロン酸と外陰部膨隆
更新日:2025.09.13
ヒアルロン酸を胸に注入したら、おなかを通って外陰部から出てきた
毎日毎日10年以上診療している。
沢山臨床経験を積んで、もう50歳半ばも過ぎて、驚かない!!と心に決めてもやっぱり難しい患者さんはやってくる。
私のクリニックは、なぜかバルトリン腺嚢胞の処置で有名らしい。毎日何人もの患者さんが処置を目的に訪れる。そんな中、右外陰部が非常に膨らんで赤くはれて痛くて仕方がないという患者さんがいらっしゃった。聞くとここでクリニックは3件目。原因がわからず困っているという。
しばらく続く右外陰部の膨隆感と腫れと痛み。どうにか切開してほしいとの依頼があった。超音波検査をすると膿瘍と思われる液体貯留が5㎝以上あり、感染の可能性もあるため切開することに決めた。なんとなく右下腹痛もあるといわれたが、外陰部の腫瘤に心が惹かれてしまい、同意書にサインをいただいて、診察室に入ってもらった。
局所麻酔をして切開すると、内容はまだ見たことのない粘液性のどろどろした液体。軽く50mlを超える内容物だった。十分に内容を出そうと外陰部を圧迫するとさらに内容物が出てくる。よく見ると、恥骨の右側まで腫れている気がする。明らかにバルトリン腺とは位置が異なり、その内容物に違和感を覚えた。こんな内容物はどこの臓器から作られたものだろう。全く想像できない。
ある程度内容物を排出し、内腔を消毒して、込めガーゼを入れて処置は終了。出血は多くなく、翌日来院していただくことにした。
翌日、患者さんは発熱して、右下腹部まで痛いという。患部は発赤腫脹しており、採血して抗生剤の点滴投与して、処置室に入ってガーゼを抜いた。内容は昨日とは異なり、膿様の内容物で、内腔を洗浄することに決めた。カテーテルを入れて内容を洗うと、そのカテーテルはどんどん上方まで進むことが分かった。この膿はへそ脇まで続いている。この空間が不自然極まりなく、何の空間か恐ろしくなった。私が感染させてしまったために、上方まで空間ができてしまったんだろうか。
大学で行ったいろいろな手術を思い出す。後腹膜血腫の場合、膣後方からへそ近くまで血腫ができて、除去術をしたことも思い出すが、位置が違う。ここは何か。
毎日、腹腔内まで続く洗浄と抗生剤の点滴で、2日で発熱は治まり、患者さんには調子がよくなったと喜んでいただいた。でも、やっぱり心のどこかで、これは何なんだろうと気になっているのも事実だった。
1週間がたち、患者さんが突然私にこの答えを教えてくれた。
10年前にヒアルロン酸を胸に入れた。そのことはすっかり忘れていた。ちょっと意識してみると右のおっぱいが小さくなっている。きっとこのヒアルロン酸が下に落ちて外陰部が張れてしまったんだろうという。確かに胸の大きさには左右差があった。でも、これが皮下を伝わって外陰部の膨隆にまでなるのだろうか?しかしながらこの外陰部から腹部までの空間の洗浄を3日行わないと右下腹痛が出現してしまう。症状がよくなったことも事実だが、根治手術をしなければならない気がした。ある大学病院に紹介し、形成外科医が根治手術をしてくださるという。なんとありがたいことか。
毎日、もっともっと精進して治療を行おうと思う。まだまだ知らないことばかり。
胸のヒアルロン酸が腹部に流れ落ちる。
こんなことがあるのだろうか。

白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。