切迫早産の原因と絨毛羊膜炎の治療に関して
更新日:2024.03.20
私が25年前に研修医をしていた頃。
その当時はあまり「絨毛膜羊膜炎」はなじみがある言葉ではありませんでした。
切迫早産はどうして起こるのか?
研修医の私は毎日毎日、子宮収縮抑制剤の塩酸リトドリンの点滴を必死にさしておりました。
切迫早産の患者さんは、この診断名で入院するとすぐに点滴が開始します。
そして妊娠36週の声を聴くまで、この点滴を外す時間は数分もありません。
点滴を外した途端に、外れてしまったり、漏れたりするとすぐに子宮収縮を感じます。
どうしてこんな病態になるのか?
産科医に何ができるのか?
原因がわからない研修医にとって、不思議な気持ちともやもやした気持ちの中、毎日病棟で昼も夜も点滴していました。
その点滴というルーチン業務の中に、膣洗浄という毎朝の業務があります。
毎日、切迫早産の妊婦さんに膣内洗浄をイソジンという消毒薬で洗浄して、クロラムフェニコールという抗生剤を投与するのです。切迫早産の原因は膣内感染である可能性があるのでは?という考えのもとに、毎日洗浄するのです。
そして、同時に、抗生物質の点滴投与も行われます。
妊婦には、必要ない薬剤投与はしないと世の中の人はみんな信じているのに、たくさんの抗生物質の投与が行われておりました。そのような状況の中で、妊娠37週以降の正期産で出産になる方がいると、産婦人科医としてホッとします。
しかしながら、実際は、たくさんの治療薬を使用して、ベット上安静で必死にママたちが頑張ったとしても妊娠37週未満で陣痛が発来してしまったり、破水してしまって出産しなければならない方たちがいらっしゃいます。
その方々の胎盤や卵膜を病理検査に提出すると、その結果「絨毛膜羊膜炎」という診断となるケースが多くあります。
「絨毛膜羊膜炎」。
耳慣れない言葉ですよね。
早産の原因、絨毛膜羊膜炎とは?
絨毛膜羊膜炎は、赤ちゃんと子宮の間にある卵膜(絨毛膜・羊膜)が感染を起こすことで引き起こされる疾患で、流早産になりやすくなります。
絨毛というのは胎盤を形成している組織であり、妊娠初期から胎児が母親からの血液中の栄養や酸素や水分をもらうために形成されるものですが、子宮内感染症のために十分な発育ができていない、または機能不全に陥る可能性があります。
胎盤形成不全や発育不全では、胎児に十分な酸素や栄養は運ばれず、胎児機能不全の判断となり、帝王切開術での緊急手術になることがあります。また、羊膜は胎児と羊水を包む膜ですが、羊膜に感染することにより羊膜が破れやすくなり、前期破水となってしまうことがあります。
これが早産の原因になります。
絨毛膜羊膜炎の症状
症状には下腹部痛、お腹の張り、おりものの増加、おりものの悪臭があり、状態が進行すると早産や子宮頚管の短縮、前期破水の可能性があります。
絨毛膜羊膜炎の治療
「絨毛羊膜炎」は、産婦人科にとって、とても治療が難しい病態です。
感染治療を妊娠期間中に介入しても、妊娠初期からの感染症の場合治療効果が得られない場合もあります。新生児医療で生存率は非常に高い日本の医療ですが、早産児は、時に難聴、視覚障害、呼吸障害、発達障害を回避できない場合があります。
この原因を考えると、膣内は常にラクトバチルスが豊富で細菌が入り込めない良い環境を保ちたいものです。性病や細菌性膣症にならないことを心がけるのは大切です。
また、子宮内感染症が生じないように、妊娠中絶処置はなるべく回避したいです。
そして、不妊治療を行う際には、受精卵を子宮内に運ぶ操作があるため、細菌が入らないように最大限の注意が必要です。
理想論ですが、子宮内はそもそも無菌が望ましいと、総合周産期母子医療センター病棟医長だった経験から心の底から思っています。
絨毛膜羊膜炎の検査
絨毛膜羊膜炎の検査には、おりものの培養検査と子宮頚管の顆粒球エラスターゼ検査があります。
培養検査では感染している細菌を特定し、適切な抗生物質を選択します。
エラスターゼ検査は卵膜や子宮頚管の状態を評価し、早産や前期破水のリスクを測定します。
絨毛膜羊膜炎の治療と予防
治療には抗生物質と子宮収剤の使用が含まれます。
同時に、仕事や家事を休み、安静にすることも勧められます。疲労や睡眠不足は感染リスクを高めるため、十分な休息が重要です。
症状が現れた場合は早めに医師に受診し、早期発見と治療が早産を防ぐのに役立ちます。
白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。