第5回婦人科形成研究会
第5回婦人科形成研究会
2024年11月8日に、第5回婦人科形成研究会が開催されました。
今回の演者は、昭和大学横浜市北部病院女性骨盤底センター センター長の嘉村康邦先生にお願いいたしました。先生は長年、尿失禁や骨盤臓器脱などの女性泌尿器科領域の手術療法に関して、最先端の技術を持っていらっしゃる先生です。講義内容はとても分かりやすく、且つ、懐かしい経腟手術と膀胱脱のアフリカ諸国の悲しい女性たちの転機までお話しいただくという幅広い内容でした。この講義をきいて、研修医のころを思い出してみました。
<尿もれは泌尿器科。臓器脱は何科?>
尿もれというと、内服薬で効果が得られるのは過活動性膀胱。腹圧性尿失禁は、内服薬はあまり有効ではありません。それ以外の臓器脱に関しては、なかなか薬剤でよくなることはありません。臓器脱は婦人科にとっては、子宮脱。泌尿器科医にとっては、尿道脱、膀胱脱。消化器外科にとっては直腸脱。これらを膣側から手術をするのが臓器脱の一般的な手術なので、婦人科が臓器脱をするのが一般的と思っていました、今回ご講演いただいた嘉村先生のお話を聞くと、婦人科でなく泌尿器科の先生が、直腸脱に関して膣壁の後壁側の手術をされることに驚きました。婦人科医にとっては、経腟の手術を行うのは婦人科経験6年目以上の上級医師というイメージが強くありました。経腟手術は視野が狭く、出血が生じたときに膣の中に入れられる手はせいぜい2本。この狭い視野で手術を完成させるのは結構大変なことです。止血操作は、糸の結紮の技術が問われますし、その後の各臓器の機能温存も考慮して、慎重に行わなければなりません。
ところで、臓器脱ってイメージ湧きますか?研修医の時に産婦人科の我が教授から、「昔は温泉場に行くと、ばあさんたちが両足の間から子宮をぶら下げて歩いていたもんだ」と言われ、全く状況が理解できませんでした。おなかの中、膣の奥にあるべき子宮がどんどん下垂して、膣を通って股の間に落ちてきてしまっているのです。多産や腹圧のかかる畑仕事で、子宮が体外に押し出されてしまったのです。子宮が下垂すると同時に、膀胱も直腸も外に引っ張られます。ひどい場合は、尿も便も排泄できなくなります。このような患者さんには、産婦人科では、体外に下垂した子宮を摘出して膣壁を縫い縮め、膀胱と直腸をもとの位置に修復する手術を行います。これが婦人科医にとっての一般的な子宮脱の手術です。
では、どうして臓器脱になるのか。臓器脱を防ぐことはできるのか。
臓器脱はやはり、分娩後の多産の方や難産の方に起こることが多いです。臓器脱にならない出産のコツは?というと、助産師さんが「いきんでー!」というまで、陣痛が来ても力を入れずにいきみを逃し、少しのいきみで出産する。もちろん、赤ちゃんの心拍数が減少していないことが前提ですが。
具体的なお話をすると、出産シーンで、「ひーひーふー」と助産師さんが妊婦さんの声がけするシーンをテレビなどで見ることがあると思います。これが臓器脱を起こさせない大切な時間です。陣痛が生じると、無意識に腹圧がかかってしまいます。なんとなく、おなかに力をかけたくなってしまうのです。でも、ここが大事。子宮の出口が全開大、つまり10㎝に開くまで決して腹筋に力を入れてはならないのです。子宮の出口が閉じているときは、どんなに腹圧をかけても、赤ちゃんは出てきません。子宮ごと、骨盤内に下がってしまうだけです。理想的なお産は、子宮の出口が完全に開くまで力を入れず、産道に赤ちゃんが下りてきたときに少しいきむと出産されるのです。
「子宮の出口が全開大するまでいきまない」。これが子宮脱、臓器脱にならないお産のコツです。私も二人の子供を経腟分娩で出産しておりますが、それがどのくらい難しいかは、よくわかっているつもりです。実際には、早く赤ちゃんを産み落としたくて、ついつい力が入ってしまうのです。赤ちゃんが大きく分娩時間が長かったこともあり、いろいろな機序は理解できていても、膀胱脱、直腸脱は避けられない。その後の尿もれも避けられない。というわけで、私は自分のクリニックには、モナリザタッチもエムセラも、エムスカルプトも自分のためにあります。私の場合は、臓器脱は重度ではなかったため外科的処置をしなくてもよくなりました。
<膀胱膣瘻、直腸膣瘻>
臓器脱の次に気になるお話は、膀胱膣瘻、直腸膣瘻でした。こんな言葉知らないですよね。私は、産婦人科に入局した時には、全く知らない言葉でした。
「瘻孔」。
つまり穴が開くことです。骨盤の中を解説すると、膣の奥に子宮がある。子宮と膣の前に膀胱と尿道がある。子宮と膣の後ろに直腸がある。膀胱と膣の間に穴が開くと「膀胱膣瘻」、直腸と膣の間に穴が開くのが「直腸膣瘻」。
これは、いったん生じると外科的治療を行わないと膣から尿や便が漏れてしまう。ちょっと想像するのも怖いですね。ですが、この医学が発達する前には、難産による膀胱膣瘻や直腸膣瘻は時々見かける病態だったようです。
嘉村先生がお話していただいたご講演では、アフリカの難産の女性が、出産時に児頭が恥骨部位に引っかかってしまい、4日以上児頭が同じ位置にいることにより膣壁や膀胱壁を圧迫して壊死性変化を起こして膀胱膣瘻になってしまうお話がありました。逆に、児頭が小さく、分娩の進行が速いお産での膀胱膣瘻は私も聞いたことがあります。壊死性変化の場合は、その組織を切除して縫合しなければ、感染症で死に至ることもあります。児頭で裂けた場合は、すぐに層を合わせた縫合により修復可能です。
膣後壁と直腸の間の組織は、とても薄く弱い組織なので分娩時にもよく裂傷が生じる場所です。分娩後には必ず直腸と膣壁に穴が開いていないかを確認するのが一般的です。これを見落とすと、創部が腸内細菌による感染を生じた場合、なかなか縫合部分の組織が修復できない場合があります。つまり穴が開いたままになる。膣から便が漏れる。このため、決して直腸膣瘻を作ってはならないというのは婦人科医誰もが知っていることです。消化器外科医の常識でもあります。
このような話とは、全く異なる視点から生じた直腸膣瘻があると聞いております。最近、膣壁にヒアルロン酸や脂肪を注入する美容クリニックがあるようです。膣壁に美容目的で何かを注入するということがあるのかもしれませんが、大切なことはこの直腸膣瘻を作らないということです。膣壁と直腸の間の組織はとても薄く、その間に注入する場合、その手技がとても大切です。膣壁から針を穿刺するときに、直腸を貫かないようにすること。このためには、直腸に指を挿入し、膣壁から刺す針先を確認しながら施術を行わなければなりません。直腸診は産婦人科医や消化器外科医にとっては普通の手技ですが、美容外科の医師はその研修を受けていないことが多いです。このため、直腸膣瘻の危険性を知らずに施術をおこなっている医師がいる可能性があります。
膣壁にヒアルロン酸や脂肪、成長因子を注入したい方は、この点を十分に考慮して、十分な説明を受けてから施術を依頼してください。特にヒアルロン酸や脂肪は、一度感染すると除去と修復が非常に難しいです。患部の感染がコントロールできない場合は、人工肛門増設術を施行しなければならない場合もあります。
いろいろな病態があり、デリケートゾーンの治療は難しいなあと深く考えさせられた講演会でした。
嘉村先生、ありがとうございました。
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