性犯罪被害者の診察
更新日:2024.04.23
私の医師の仕事をするうえで最も信頼する女性弁護士さんがいる。虎ノ門で事務所を持たれている金澄道子先生。もう知り合ってから15年以上の月日が流れている。
私が若いころから務めていた、埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでは、日常から性犯罪のあった患者様が警察とともに訪れ、昼夜土日祝日構わず、診療を行っていました。当時、私以上の年齢の産婦人科医で女性が占める割合は5%。女性医師であるという使命感から、いつ何時でも性被害にあった患者さんには誠心誠意を込めて診療に従事しておりました。しかしながら、未熟な若い女医。できることも考えることも小さかったなあとしみじみ思いだします。特に、医療に関しては何とか提供できるものの、やはり必要なのは性犯罪に関して相談できる弁護士さん。どうやって、お知り合いになれるか日々悩んでおりました。
結婚妊娠出産を機に、大学病院を辞めざるを得なくなり、クリニックのアルバイト勤務のご縁から虎ノ門にあるクリニックで金澄先生とお知り合いになることができました。女性支援にご活躍なさっている弁護士さん。今までの悩みを沢山聞いていただき、今まで悩んでいた性被害者に関する診療がはっきりとできるようになりました。
警察と一緒にクリニックへに来院してもらう場合、警察がDNA鑑定を行う資材を提供していただけるので、精液を採取して、性病検査を行い、緊急避妊ピルを処方する。犯罪が原因の場合、この検査費用については、警察がクリニックに直接費用を支払ってもらうことになっている。
先日、産科婦人科学会のHPをふと見ると、どんどん性犯罪に関して法は整備されていくなと実感しました。ご存じない方もいらっしゃると思うので一部抜粋を。
不同意性交等罪について
令和5年7月に刑法が改正され、それまで「強制性交罪」とされていた罪名が「不同意性交等罪」となりました。平成29年の改正で「強姦罪」が「強制性交罪」となり、それまでは女性のみであった被害者が性別を問わず広がり、性器性交だけでなく肛門性交や口腔性交も含まれるようになりましたが、暴行または脅迫を用いてという要件は残っていました。今回の改正では、膀胱・脅迫に加え、心身の障害、アルコールまたは薬物の影響、睡眠その他の意識不明の状態、同意しない意思を表明しているかそのいとまがない場合、予想と異なる事態に直面することで恐怖や驚愕している状態、虐待に起因する心理的反応、経済的または社会的感関係上による地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させることに乗じて性交した場合が加えられました。同意をしていない意思を表明している場合だけでなく、その隙を与えず相手が性交に及んだ場合や、恐怖や驚愕のためにフリーズしている状態、経済的または社会的地位に基づくパワーバランスから断りづらい状態が条文に盛り込まれ、より広い状況下で性交が不同意性交として認められるようになりました。「公益社団法人日本産科婦人科学会HPより抜粋」
しかしながら、金澄先生とお話しすると、いきなり性犯罪の被害者が警察に行くのは敷居が高いのでは?といわれました。実は、私が気にしているのは、診察時にしっかりカルテに証拠を残しておきたい、DNA鑑定もできればしたほうがいいと思ってるので、どの時点で警察に協力してもらうか、また、その費用面をどうすべきかを悩んでおりました。そして、厚労省のHPから以下の内容を確認しました。
○犯罪被害による傷病の保険給付の取扱いについて〔国民健康保険法〕
(平成26年3月31日)
(/保保発0331第1号/保国発0331第2号/保高発0331第12号/)
(全国健康保険協会理事長・健康保険組合理事長・都道府県国民健康保険主管課(部)長・都道府県後期高齢者医療主管課(部)長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)
(公印省略)
犯罪の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされている。
また、加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、犯罪の被害者である被保険者が当該誓約書を提出することがなくとも医療保険の給付は行われる。
こうした取扱いについては、平成23年8月9日付保保発0809第3号・保国発0809第2号・保高発0809第3号厚生労働省保険局保険課長・国民健康保険課長・高齢者医療課長連名通知「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」(別紙1)でお示ししたところである。
被害にあった人でも、保険適応で診察可能とわかり、診療に迷いがなくなりました。
もっともっと被害者にやさしい世界になってもらえるように、非力ながら協力したいと思っております。
白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
海老根 真由美(えびね まゆみ)
産婦人科医師・医学博士
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センターでの講師および病棟医長の経験を積み、その後、順天堂大学で非常勤准教授として活躍。
2013年に白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開院。
女性の人生の様々な段階に寄り添い、産前産後のカウンセリングや母親学級、母乳相談など多岐にわたる取り組みを行っています。更年期に起因する悩みにも対応し、デリケートなトラブルにも手厚いケアを提供しています。